メインストリーム化する白人至上主義者の陰謀論「置き換え理論」 NY州銃乱射の背景

スーパーマーケットの外で祈る人々(5月15日)|Matt Rourke / AP Photo

◆事件の背景にある陰謀論とは
 ジェンドロン容疑者が公開した180ページの別の声明文によると、歴史的に白人がマジョリティを占めていた国において、白人が有色人種に取って代わられると主張する陰謀論である「置き換え理論(replacement theory)を参照している。ニューヨーク・タイムズの記者ニコラス・コンフェッソーレ(Nicholas Confessore)の解説によると、この陰謀論には、今回の犯行に至った容疑者が主張するような過激なものから、保守派のマスメディアや政治家が便利なキーワードとして使用するケースまで、さまざまなバリエーションがある。いずれしても、米国などの人口動態の変化(白人種と分類されるグループが過半数を下回りつつある)や移民の増加などの状況に対して恐れと怒りといった感情を多かれ少なかれ持っている白人至上主義者の間で、広まりつつある陰謀論だ。

 実際、AP通信が最近実施したアンケート調査によると、3分の1ものアメリカ人が「得票のために米国生まれのアメリカ人を移民に置き換えるという施策が行われている」と考えているという結果が明らかになった。また、フォックス・ニュースのホスト・政治コメンテーターであるタッカー・カールソンは、自身の看板番組である『タッカー・カールソン・トゥナイト(Tucker Carlson Tonight)』にて、この陰謀論を支持するようなコメントを定期的に発信している。カールソンと彼の番組は、とくに保守派で忠誠的な視聴者に人気があり、予備選挙においても非常に大きな影響力を持つ。カールソンは直接的には特定の人種には触れていないものの、民主党が移民政策によって、民主党の支持率を増やそうとしているという陰謀説を主張。カールソンの発言は、移民は基本的に有色人種であり、民主党支持派であるということが前提となっている。

 前述の記者コンフェッソーレは、白人至上主義者が支持する置き換え理論が、カールソンの番組などといったマスメディアによって拡散し、メインストリーム化することについて、たとえその主張そのものが過激なものではなくても、より過激な主張の温床となる危険性があることを示唆する。なぜなら、マスメディアによる是認は、過激派の主張が存在し続けることを助長するからだ。

 なくならない白人至上主義の陰謀論。そしてヘイトクライムと銃乱射事件。さらなる犠牲と被害を防ぐには、陰謀論そのものに対しての撲滅対策だけでなく、マスメディア、SNSの影響力、そして銃規制の問題に対しても同時に取り組み続ける必要がある。

【関連記事】
「アメリカは内戦に向かっている」語られる危機 議会襲撃から1年
【独銃撃】世界で連鎖する白人主義テロ 欧米で懸念高まる
NZ銃撃、ネットの暗部から生まれた凶行か 犯人の「足跡」から見えるもの

Text by MAKI NAKATA