豪の悪名高い収容施設、ジョコビッチ滞在で注目集める

Hamish Blair / AP Photo

◆悪名高き、難民申請者「収容ホテル」
 ジョコビッチが待機していた場所は、メルボルン大学やロイヤルメルボルン工科大学といった主要な教育機関が集まるカールトン地区にあるパーク・ホテル・メルボルン(The Park Hotel Melbourne)。ウェブサイトには、カールトンの一等地にある4.5星の高級ホテルとの表記がある。現在オンライン予約はできないようだが、トリップアドバイザーの評価は720件のレビューの約3分の2が高評価(星4つか星5つの評価)を下している。写真を見る限りでは、特別に高級という雰囲気はないが、設備の整ったハイエンドなビジネスホテルといった印象だ。

 2020年12月以降、オーストラリア国境警備隊(Australian Border Force:ABF)は、このホテルを太平洋諸島の収容施設に何年も収容されていた難民のうち、治療を必要とする人々のための収容施設として使用してきた。ボートなどで亡命してきた人々を、太平洋諸島のオフショア収容施設に収容するという豪州の政策は、非難の対象になってきた。人々は治療以外の目的での外出は許されていない。また、ホテルとはいえ、施設の状況も決して良好なものではない。昨年の10月、11月にかけてはコロナウイルスの感染が広がり、一時には、収容されていた46名の難民申請者のうち22名がコロナウイルスに感染した。感染者の隔離状況は十分ではなく、ホテルの窓も開けられないため、十分な換気も行われておらず、滞在者は不安を抱えていた。さらに、12月には施設の一部で火事が発生。滞在者は全員避難したものの、その後はロビーに隔離させられ、外出は許されなかったという。提供される食事も劣悪なもので、食べ物にはウジや青カビが発生していたという状況がSNSを通じて報告されていた。

 パークホテルの前では昨年から難民支援・解放を呼びかける人々によるデモ活動が行われてきた。今回のジョコビッチの収容施設滞在を受け、ホテル前では、ジョコビッチのファンやセルビア系オーストラリア人らによるジョコビッチ解放のデモや、コロナワクチン反対派のデモも行われた。難民の擁護活動を行う人々にとっては、ジョコビッチのビザ取消から派生したメディアや国際社会の注目は、希望をもたらすものである一方で、さらなる悲痛をもたらすものでもある。ジョコビッチのビザ取消は裁判官によって無効とされ、彼はホテルを去り、人々は取り残された。改めて浮き彫りとなった、収容施設と難民問題の改善と対策を求める動きが、国内外で継続的に活発化することが期待される。

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Text by MAKI NAKATA