フランスで男でも女でもない代名詞「iel」登場 個人主義の行きつく先は?

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◆性差別問題に結びつけられる理由
 ielの使用にフェミニズムを感じるフランス人は多い。なぜならば、フランス語の文法は「男性」優位にできているからだ。ここでいう「男性」とはもちろん文法的性のことだ。上に示したように、フランス語では名詞はほぼすべて男性名詞か女性名詞に分類され、名詞を修飾する形容詞や冠詞なども男性形と女性形では異なる。ただし、複数の物あるいは人について記述する場合、ひとつでも男性名詞が混ざっていれば、全体は男性形をとるのだ。つまり、男性1人と女性99人のグループであっても、「ils(彼ら)」と呼び、「elles(彼女ら)」とは呼ばない。

 こういった男性優位の文法は、これまでも何度か性差別と関連して取り上げられてきている。そのため、今回のielについての議論も、こういう言語の成り立ちを許してきた社会の性差別問題として捉える人が多い。

◆若い世代に希薄な帰属意識
 しかしながら、iel使用に抵抗がないという若い世代へのアンケートやレポートを見ると、若い世代には性差別を告発するという意識よりも、「カテゴリーへの所属拒否」の色合いのほうが濃いように感じる。

 たとえば、マリアンヌ紙と調査会社IFOPが2020年11月に行った世論調査によれば、18歳~30歳のフランス人の22%が「男女どちらのカテゴリーにも所属していないと感じる」と返答している。5人に1人よりも多い数だ。TV5テレビ局の討論番組セ・ダン・レールが流した高校生たちへのインタビューでも、「私たちのクラスにも、男とも女とも思っていない子が複数いるよ」と、当然のことのように話す学生が何人か映っている。

Text by 冠ゆき