伝統的にいとこ婚の多いパキスタン、遺伝性疾患が問題に

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◆同じ形質の遺伝子同士が結ばれると疾患を招きやすく
 近親婚は死産の原因となるほか、失明、難聴、血液疾患、そして心臓や脳の機能不全などを招くことがある。デイリー・メール紙は、胃と腸が分断された状態で生まれてきた新生児も確認されたと報じている。近親婚により遺伝性疾患の可能性が上がるのは、親類同士が同じ遺伝子を共有している傾向があるためだ。仮に両親のどちらかから疾患の原因となる潜性(劣性)の遺伝子を受け継いでも、もう片方が正常な顕性(優性)の遺伝子であれば、特性が発現する可能性は低い。夫婦が同じ遺伝子を持っている確率は100分の1といわれるが、いとこ同士では少なくとも8分の1に上昇する。同紙によるとパキスタンの人々の間でこの認識は薄く、むしろ文化的に好まれる習慣として定着しているという。信頼できる相手に財産を遺したいという親側の意向もあるようだ。

 また、半ば義務感のような形で親類と結婚しているケースもある。ニュース・インターナショナル紙は、ダウ・ヘルス・サイエンス大学の専門家のコメントとして、「医療関係者と宗教学者たちは、親戚との結婚は義務ではないという認識を明確化し、大衆に広めるべき」であり、「いとことの結婚は可能ではあるが必須ではなく、なんとしても避けるべきである」との主張を伝えている。

◆まずはリスクの認識から
 近親婚と遺伝性疾患の関係はデリケートな問題であり、これまで公に語ることは必ずしも容易ではなかった。いとこ同士の結婚は多くの国で合法と認められているほか、すべてのケースで新生児に疾患が生じているわけでもない。しかし、疾患に苦しむ子供の割合を増やしているとみられ、パキスタンでは遺伝性疾患による経済損失も問題となっている。ドイツの神経科医であるアーント・ロルフス博士はニュース・インターナショナル紙に対し、「すべては正しい知識から始まる」と述べ、リスクの教育や新生児の検査などが重要であるとの姿勢を示した。同じく近親婚の割合が高かったイスラエルでは、宗教的指導者のラビが近親婚を祝福しない姿勢を示すことで、この割合が低下し始めているという。

 イギリスのパキスタン人コミュニティに住むある女性はデイリー・メール紙に対し、「比較的若い世代は親戚との結婚を用心するようになってきている」と説明している。いとこ婚自体が悪というわけではないが、正しい認識のもとでの判断が望まれる。旧来の文化的価値に影響を受けにくい若者の間で、認識はゆっくりと変わりつつあるようだ。

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Text by 青葉やまと