接種8割も感染急増 それでも「ウィズ・コロナ」を行くシンガポール

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◆検査多すぎ? 陽性でパニックに
 シンガポール国立大学のジェレミー・リム氏は、政府の戦略への不満は、学術界や医療専門家からもこれまでにないほど出ていると述べる。専門家が批判するのは検査のやり過ぎで、これが感染者数増加の一因とも見られている。政府はすべての世帯に検査キットを送っており、軽症や無症状の陽性者が病院に殺到し医療を圧迫している。保健省によれば、過去28日間の感染者の98%は軽症または無症状だった。(FT)

 リム氏は、国民の感染に対する恐怖心はかなりのもので、ワクチンを打った20代の若者でさえ陽性の事実に怯え、無症状でもまるでがんの宣告のように深刻に受け止める人もいると述べる。(同)

 ロイターによれば、検査と隔離に関する最近の変更も、混乱と不満を市民にもたらしたという。保健省は、手順の見直しや無症状者への対応、さらにそういった人々をわざわざ検査する必要があるのかについて検討している。

◆ワクチンで出口へ ウィズ・コロナに自信
 ウォン氏は、必ずいまの波も今後の波も乗り越えられるとして、シンガポールの高いワクチン接種率が決め手だと会見で話した。欧州は昨年大きな波を経験し多数の犠牲者を出したが、いまでは自然免疫のレベルが格段に上がったうえに、ワクチン接種が進み、多くの国々が経済を再開できる安定した状態に達していると指摘する。一方、シンガポールの場合は感染が長い間非常に低く抑えられてきたため、ウイルスと戦う抗体のない人が圧倒的だったが、幸いにもワクチン接種が進んだ後にいまの波が来ており、大多数が重篤化することから守られると述べる。最終的に、数ヶ月後には欧州各国と同様の状況になり、新たな感染の波を起こさず、自信をもって経済再開ができるようになるとしている。(CNA)

 多少の混乱はあるものの、パンデミックをコントロールしながら出口に向かうという、ほかの国が成し得なかったことに挑むシンガポールは称賛に価する、という専門家もいる。第5波を乗り切りワクチン接種が進む日本にとっても、シンガポールの試みは今後の参考になりそうだ。

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Text by 山川 真智子