中国の若者の抵抗「タンピン」ムーブメントとは 警戒する政府
◆タンピン主義の広まりの背景
タンピン主義が広まった背景には、996に象徴される過酷な労働環境、消費者の後悔、そして基本的な尊厳に対する願望があるとブルッキングス研究所は分析する。996のような長時間労働の考え方は、アリババの創業者であるジャック・マー(Jack Ma)なども推奨してきた考え方だ。中国を代表するビッグテックのファーウェイは、内外から「オオカミ文化(wolf culture)」と称される企業文化を持つ。これは、従業員同士が激しい競争にさらされるといった企業文化を表したものだ。しかし、ミレニアル世代やZ世代の間では、自分を犠牲にしてまで働こうという価値観は薄い。これはグローバルなトレンドでもあり、中国も例外ではないようだ。
タンピン主義の背景には、消費のあり方に対する懐疑的な考え方も存在している。中国のミレニアル世代は消費のプレッシャーにもさらされているという。もともと浪費よりも貯蓄の文化が基本にあり、クレジットでの買い物は一般的ではなかった中国だが、この10年の間に、中国人は世界一堅調な消費者へと変化した。政府も国内消費を促し、消費者金融も発達した。同時に、若い消費者は手軽なローンに手を出して負債の罠に陥った。一方、中国の主要都市では物価が上昇し、生活必需品の購入もままならない若い消費者も少なくない。タンピンは過度な消費の促進による経済成長に対する、消極的な抵抗の姿勢を示すものだ。
さらに、タンピン主義の流行は、中国一党独裁の権力による経済成長のアプローチそのものの社会的な限界を示すものでもあるとブルックキングス研究所の記事は指摘する。中国国民はより基本的な尊厳を求めている。とくに若者たちはタンピン主義の有無にかかわらず、よりより労働環境を求めている。中国政府は、国家の成長を維持するため、今年5月には「3人っ子政策」を発表したが、もはや中国の若者がこうした政策に対して容易に呼応することはなさそうだ。
クオーツの記事は、ネット上で広がるニッチな流行であるタンピン主義が、大きな政治的ムーブメントへと進展することはないだろうとの見解を示す。しかし、この静かなる、非暴力的な抵抗を、武力や圧力で抑制することも難しそうだ。タンピン主義が、今後の中国の経済成長をもフラット化させる可能性もなくはない。中国だけでなく、経済成長が引き続き最優先される他国においても、「持続的な成長」に対する新たなアプローチが問われることになりそうだ。
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