成人接種1回目ほぼ完了 ブータンが最速で接種できた理由

Bhutan Health Ministry via AP

◆ワクチン外交の恩恵 インドから援助
 ブータンのスピードワクチン接種に大きく貢献したのは隣国のインドだ。英インデペンデント紙によれば、ブータンは1月にインド製のアストラゼネカのワクチン15万回分、さらに3月に第2便40万回分をインドから無料で受け取っている。シンクタンク、ウィルソン・センターのマイケル・クーゲルマン氏は、ブータンはインドのワクチン外交のターゲットだと指摘(英テレグラフ紙)。人道的な懸念に基づいたものかもしれないが、中国に対抗しインドの影響力を強化するための手段でもあると述べている。

 インドは、ワクチン以外にも検査キット、防護具、N95マスク、解熱鎮痛薬などの医薬品もブータンに提供している。ブータンの首相は、タイムリーなサポートとワクチン提供に感謝するとし、迅速接種の実現に大きな役割を果たしてくれたとインドのモディ首相にメッセージを送っている。

◆オールブータンで成功 コロナ克服までもう一息
 接種の促進には、政治や王室が重要な役割を果たした。ロテ・ツェリン首相自身が医師であり、デチェン・ワンモ保健相は、アメリカの有名大学の心臓病学と疫学の学位を有している。2018年に公衆衛生重視の公約で選出された政府は、パンデミックに精力的に対応。首相はフェイスブックでコロナウイルスに関しての情報を国民に送り続け、皆がワクチンを接種することの重要性を訴えてきた。また国王は、全国1200ヶ所以上の予防接種所の設置と運営に協力する国家奉仕団を自ら結成した(エコノミスト誌)。

 市民ボランティア「デスウプ」の貢献も接種成功につながった。「デスウプ」は、ワクチンを医療センターに届け、市民の接種予約を確認し、感染防止のための啓蒙活動も行う。また、接種のために医療スタッフとともに山間部の村々を訪問。パンデミック前には医師37人、常勤の医療従事者3000人だったブータンにおいて、その存在は大きな助けとなっている(テレグラフ紙)。

 ブータンの占星術師たちのおかげもあるとエコノミスト誌は述べる。政府は第1便のワクチンを受領した後すぐには接種を始めず、仏教僧の団体にアドバイスを求めたという。僧たちはいますぐではなく2ヶ月待って、申(さる)年の女性を接種第1号とするよう告げ、その言いつけ通り、3月27日に最初の接種が行われた。一見宗教的と思われるこのやり方は実は賢明だった。十分な数のワクチンが揃うまで接種を待ったことで、煩雑な配給制を避けることができたという。また、素早く1回目の接種を終えたことが、2回目接種用のワクチンを早く送ってほしいというインドへのメッセージにもなっていると同誌は述べる。

 ブータンは1990年代に国民皆保険制度を実現し、ワクチン接種では大きな成功を収めてきた。予防接種プログラムが確立されているため、一般市民も当局を信頼し、ワクチン忌避も少ないという。インデペンデント紙によれば、2回目接種は8~12週間後に予定されているということだ。ブータンの元国連大使は、国民の間には安堵感が広がっているように見えるが、2回目接種が終わるまでは安心は禁物だとしている(テレグラフ紙)。

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Text by 山川 真智子