減少する精子 人類の存続を脅かす、米疫学者が警告
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◆無精子男性が主流に? 女性の不妊も増加
スワン教授の2017年のメタ分析によれば、北米、欧州、オーストラリア、ニュージーランドの男性の精子数は、1973年から2011年の間に59%以上も減少していたという。このペースで行けば、2045年までにこれらの国の男性の半分が無精子となり、ほかの多くも非常に少ない精子しか持たない状況になるという。
精子減少が起こるのは、プラスチック、電子機器、食品包装、殺虫剤、パーソナルケア製品、化粧品などに含まれる内分泌かく乱物質が、体内に取り込まれたためだと同教授は述べる。ビスフェノールAやフタル酸エステルといった化学物質は、テストステロンやエストロゲンを含む通常のホルモン機能に害を与え、たとえ少量でも成長途上の胎児に際立った危険を与えると同教授は指摘している。(政治誌ポリティコ)
さらに同教授は、精子の減少だけではなく、テストステロン値の低下、精巣腫瘍の増加、勃起不全の増加など、男性の生殖に関するあらゆる種類の問題は年に1%ずつ増加していると述べる。年に1%なら大したことではないと感じるかもしれないが、10年で10%以上、50年で50%以上だとし、事の重大さは否定できないとしている(サイエンティフィック・アメリカン誌)。加えて、内分泌かく乱物質は性器奇形、女性の流産や早期の月経開始などにも影響していると見ている(ポリティコ)。
◆改善への第一歩 日常使う商品の見直しを
内分泌かく乱物質が生殖障害の原因となり、少子化を引き起こしていることはほかの研究者も指摘しているが、生殖の問題については、数々の要素が関連しているのも事実だ。避妊、都市化、小家族志向への変化、高齢出産、子育て費用の増加などが少子化に影響している。しかし、希望の子供の数と実際の子供の数にギャップがあるのは事実で、出生率の低下が、完全に自主的な理由によるものではないことを示唆している。(『Axios』)
スワン教授は、内分泌かく乱物質は私たちの周りに広がっており、即効性のある解決策は残念ながらないという。しかし加工食品の消費をやめ、フタル酸エステル不使用のパーソナルケア製品を買い、プラスチックの食品容器をガラスに変えるなど、有害な化学物質を家庭から取り除くことを勧めている。それでも最終的には買い物で解決できるような問題ではないとし、別の無害な化学物質を使った商品が必要だと主張。政府や化学薬品業界に対応を求めている。(ポリティコ)
もっとも同教授は、完全にゼロになる前に、不妊や精子減少の状況は改善可能だとやや楽観的だ。2017年の研究では、生まれたばかりのマウスをエストロゲン様化学物質にさらした場合、それ以後その物質に接触しなければ、3世代後には精子の数は完全に回復することがわかったという。人間の3世代はとても長いが、しっかり取り組まなければならないとしている。(同)
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