プラセボ接種に不満 コロナ治験参加者がワクチン接種を要求

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◆倫理的にダメとは言えず 治験への影響必至
 ワクチン開発で先頭を行くファイザーとビオンテック(BioNTech)、モデルナなどは、もうじき米当局から緊急使用許可を受けると見られている。ネイチャー誌は、緊急認可が下りてしまえばプラセボを打たれた治験参加者にそのままプラセボ群に留まれとは言い難くなる、という専門家のコメントを掲載している。

 治験はワクチンが認可された後も続けられるため、十分なプラセボ群がなければ、安全性、効果の持続期間、また本当にワクチンが感染を抑えたのかを確認するためのデータ収集に支障が出る。さらに、ワクチンの使用が始まれば、現在進行中のほかの治験から離脱する人が増え、今後行われる治験への参加者も減るのではないかと専門家からの懸念も出ている(ネイチャー誌)。

◆個人の利益vs社会の利益 悩める製薬会社
 医療・健康ニュースサイト『スタット』によれば、多くの治験では有効性が確認されれば、認可前にプラセボを接種された人にもワクチンを接種することはよくあるという。同誌が入手したファイザーとビオンテック、モデルナが治験参加者に与えた文書には、そのあたりについて明らかな言及がない。ジョンソン・エンド・ジョンソンのボランティア同意書には、ワクチンが有効なら無料接種するが、時期は2年後(治験終了後)になるかもしれないと書かれている。

 製薬会社は倫理面を考え、できるだけプラセボを接種された人にも希望すればワクチンを接種したい考えだが、その一方でデータを失いたくないという気持ちもある。新型コロナワクチンの場合は、今回のような問題を検討する時間もなく超特急で開発されたため、最終的には当局の判断を仰ぐことになると同誌は述べている。

 しかし米ワイルコーネル医科大学の医療倫理学教授、フランクリン・G・ミラー氏は、臨床研究の倫理は、権利の保護と研究対象の健康の問題として理解されるが、同時に社会全体の利益もその中心であると述べる。ワクチン評価にはプラセボは必要であり、有効性が確認されたからといって、プラセボを使った治験を止めてしまうことは、社会全体の不利益になると主張している(シンクタンク、ヘイスティングス・センター)。

 ミシガン大学のアーノルド・モント氏は、そもそも待てないという人は治験に参加すべきではなかったと率直な意見を述べる。もっともワクチンが緊急使用認可を受けても供給量が少なく、プラセボを接種された多くの人たちにまで当分回ってこないとみられるため、杞憂に終わることを望むとしている(WSJ)。

Text by 山川 真智子