Qアノン:SNSが表舞台に押し上げた陰謀論 政界にも深く浸透

聴衆の前で演説するQアノン信者(11月5日)|Dario Lopez-MIlls / AP Photo

◆SNSの対策
 これらの事態を重く受け止め、SNS側でも対策が取られた。フランスアンフォ(8/26)によれば、最も早い時期に対応したのはレディットで、2018年には数万人の使用者をブロックした。ツイッターは今年7月、Qアノン陰謀論に関連する7000アカウントを削除したと発表。TikTokは、陰謀論に結びつくいくつかのハッシュタグつきキーワードをブロックした。フェイスブックはまず今年8月、800近いグループを削除し、1950のグループに制限を加え、暴動を煽る980のグループを削除した。さらに2ヶ月後の10月6日には、Qアノンに関連するすべての内容(アカウント、ページ、グループ)を、フェイスブックとインスタグラムから削除すると発表した。

◆政界への浸透
 とはいえ、Qアノン信奉者はすでにアメリカ共和党内に入り込んでいる。たとえばオレゴン州の上院選の共和党候補ジョー・レイ・パーキンズは6月末ツイッターにQアノンの「デジタル兵士」として誓いを立てる動画を投稿している。また、コロラド州の共和党候補ローレン・ボーバートもある番組で、Qアノンの運動を非常によく知っていると打ち明けている(NPR)。さらに、トランプ大統領に「共和党の未来の星」と呼ばれたマージョリー・テイラー・グリーンは2017年に、Qは愛国者でトランプ支持者、陰謀論には耳を傾ける価値がある、と言い切る(CNN、8/12)。米ニュースサイト『アクシオス』(7/12)は、連邦議会選の共和党候補のうち少なくとも11人がQアノン陰謀論を支持していると報道している。

 ホワイトハウス内部にもQアノン信奉者は少なくない。フランスアンフォは、ホワイトハウスのコミュニケーション担当副部長ダン・スカヴィーノ、トランプ大統領の顧問弁護士ルドルフ・ジュリアーニ、2016年と2020年の大統領選でトランプ陣営のデジタル戦略を担当したブラッド・パースカル、国防情報局長官や国家安全保障問題担当大統領補佐官を務めたマイケル・フリンの名を挙げている。また、今年アメリカ合衆国国家情報長官に任命されたばかりのジョン・ラトクリフも、「小児性愛者で人食いである民主党が世界を牛耳っているというQアノン陰謀論を推すアカウントを少なくとも4つフォローしている」(NBCニュース、5/6)という。

 これは実に由々しき事態なのではないだろうか。FBIが「脅威」とみなす思想が、すでにアメリカ政界の中心にまで入り込んでいるのだ。上述のBBCの番組に寄せられた証言や、レディットの「Qアノン被害者」ページをみるとわかるように、Qアノンへの傾倒はすでに多くの家族関係や友人関係を破壊している。国の上層部にまで入り込んだ陰謀論が、これまで西側諸国が培ってきた民主主義と価値観を破壊しないとは、なぜ言えようか。

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Text by 冠ゆき