南アフリカのクィア集団がヴィラ占拠で訴えた「安心して住む権利」とは

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◆アートかアクティビズムか? プロテストの形とは
 場所を占拠するという形のプロテストは、他国でも事例がある。不法占拠というやり方が、合法的な形での成功に結びついた例の一つが、カリフォルニア州オークランドにおける事例だ。昨年、家賃の高騰が続くカリフォルニア州のオークランドで、ホームレスもしくはホームレスになる危機にあった女性のグループが、空き家を占拠し、Moms 4 Housingというグループを形成して、約2ヶ月間のプロテストを行った。今年1月、武装した郡保安官が強制退去を実施したことで、メディアや市民の注目を得て、より大きなプロテスト活動へと発展。結果的に、空き物件を改装して転売するというビジネスモデルを展開する管理会社は該当物件を手放し、一旦、物件は市の管理下に。その後、Moms 4 Housingが資金を調達して、物件を買い取り、合法的に入居することが可能になった。この契約には、市だけでなく、カリフォルニア州知事も仲介に参画。ホームレス問題に関して直接的に公共セクターを動かしたという意味でも、画期的なプロテストの成功例となった。

 今回のケープタウンにおけるWe See Youのプロテストは、カリフォルニア州のようなドラスティックな結果を導くには至らなかったが、南アフリカが掲げる格差の問題や土地の問題にスポットをあてて、高級ヴィラの占拠というセンセーショナルな形でプロテストを行ったことで、メディアや人々の注目を得たという点では、一つの成功といえるかもしれない。Black Lives Matterのプロテストなど、米国や世界各国でさまざまな形のプロテストが巻き起こるなか、「正しいプロテストのやり方」というものは存在していない。プロテストの存在意義そのものが、既得権益や権力、社会システムに存在する不当な状況に対しての反対であるがゆえ、今回の占拠活動のように、プロテストには違法行為が絡むことも珍しくない。また、アクティビスト、アーティストや起業家らが、法律や規範を破ってこそ、社会変革が起こるというケースも少なくない。

 退去後、現時点では、We See YouからのSNS上の発信はない。彼らは、これからも同様の占拠活動を継続していくのか。それともアーティスト集団として別の形の表現活動で、課題提起を行っていくのか。南アフリカが抱える複雑な格差の是正に対して、簡単な方策は存在しないが、アーティストやクリエイターが仕掛けるムーヴメントが人々の意識を変え、結果的に政府の有効な政策決定に繋がるという可能性に期待したい。

Text by MAKI NAKATA