南アフリカのクィア集団がヴィラ占拠で訴えた「安心して住む権利」とは

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◆格差問題と賛否両論の「ヴィラ占拠」
 南アフリカの土地所有権の格差問題は、アパルトヘイト終焉から25年以上経過した現在も根強く存在している。今年7月の政府の統計データによると、南アフリカの人口構成のうち80.8%が黒人、8.8%がカラード、7.8%が白人、2.6%がインド・アジア系となっているが、たとえば農地の所有率(2017年公表データ)でいうと、72%が白人所有、15%がカラード、5%がアジア系、4%がアフリカ人(黒人)で、その人口比率に対する白人の土地所有率の高さが伺える。土地の再分配は、政府の主要課題の一つであり現在公約として掲げられている2030年に向けたビジョンと計画にも盛り込まれているが、是正すべき幅が大きく解決には時間を要しそうだ。

 一方、住居についても、中低所得者層に対する住宅が不足しているだけでなく、空間と人種が密接に結びつき、いまだ「隔離」されているという、まさにアパルトヘイト(アフリカーンス語で「隔離」を意味する)の負の遺産もある。多くの黒人貧困層が住むタウンシップと、富裕層が居住する地域は物理的に道路や線路といったインフラや緑地で区切られており、別世界のように隔離されている。

 また、ホームレス、女性や子供に対する暴力、LGBTQ+の人々に対する差別といったWe See Youが掲げる課題も、南アフリカ政府と社会が引き続き向き合わなければならない課題だ。南アフリカは、憲法上はLGBTQ+の権利が保障されており、他国に先駆けて同性婚も認められた国でもあるが、実際は、まだ差別や偏見などの課題が残る。We See Youのメンバーの一人でトランスジェンダーのハノンは、南アフリカの非営利社会派メディアNew Frameの取材に対して、占拠したヴィラに入居し、「ここに来てからは、自分が人間として存在できる。安心できる」と語っている。さらに、COVID-19対策からのロックダウンやステイホームで、経済活動や人々の行動が制限されたことで、これらの課題が深刻化している。We See Youのプロテストは、こうした状況に対して、「安全な居場所」に対する権利を訴えたものだ。

 こうした南アフリカの恒常的な課題意識を共有する人々は、We See Youのプロテストに対して賛同を示した。一方で、Airbnbを通じて個人所有のヴィラを占有するというやり方については、批判の声もあがった。地元メディアDaily Maverickの記者は、自らもミドルクラスの労働者、かつクィアの黒人女性だとした上で、Airbnbや観光業界が生み出す雇用や経済効果の重要性を指摘し、こうした(不法な)プロテストによる風評被害が観光業界や経済に打撃をあたえるリスクについての懸念を示した。プロテストという名のもと、ジャグジーつきの高級アパートに不正に滞在するというやり方に対しての、違和感や不信感という反応もあったようだ。

Text by MAKI NAKATA