南アフリカのクィア集団がヴィラ占拠で訴えた「安心して住む権利」とは

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 9月18日、クィア・黒人・カラードを表明する7名による南アフリカのアート・コレクティブ「We See You」が、Airbnbを通じて予約したケープタウンのヴィラにチェックインし、3日間の正規滞在のあとチェックアウトせず、そのままヴィラに違法滞在を続けるという形でのプロテストを実施した。彼らのプロテストは、世界各地で発生している「占拠」のムーヴメントに対する団結の意思表示であると同時に、アパルトヘイト後の南アフリカに根強く残る格差の課題、クィアなど、差別の対象になったり社会的に弱い立場に置かれたりしている人々が、物理的に虐げられている現状を広く訴えるための試みでもある。賛否両論の議論を引き起こしたWe See Youのプロテストと、その背後にある歴史的・構造的課題とは。

◆We See Youによる「ヴィラ占拠」の概要
 We See Youは、「20代・カラード」というアイデンティティをめぐる討議の場であるColoured Mentalityを立ち上げた、ケープタウン在住のレズビアンカップル、ケリー・イヴ・クープマン(Kelly-Eve Koopman)とサラ・サマーズ(Sarah Summers)のほか、ケープタウン近郊のタウンシップ、カイリーチェ在住のレタボ・ハノン(Lethabo Hanong)やヴァテカ・ヘリル(Vatheka Halile)など7名のアーティストが結成した集団。7名は9月18日、Airbnbを通じて予約したケープタウンのビーチリゾート地区キャンプス・ベイ(Camps Bay)に位置する邸宅に入居。3日間の正規滞在ののち、チェックアウト予定日の21日、管理会社にその意図を連絡し、そのままヴィラに滞在を続けるという形での、「占拠プロテスト」を開始した。

 We See Youは9月21日、フェイスブックやツイッターなどのSNS上でプロテスト概要を発表し、#WeSeeYouのハッシュタグとともにメッセージの発信を開始。同時にヴィラ近隣にグラフィックを使ったポスター・アートを展開し、格差の問題と社会的なマイノリティの権利を訴えた。彼らの課題意識を持って訴えるイシューの幅は広いが、格差の現状と「居場所」に関する権利の確保が、主要メッセージだ。彼らは、外国人や国内の限られた富裕層が保有する「高級住宅」の占拠という行動を通じて、南アフリカ国内における中低所得者向けの住宅不足の問題、クィアや女性・子供など社会的に弱い立場に置かれ、暴力や差別被害にあっている人々やホームレスの人のための「安全な居場所」と人権の確保の必要性を示そうとした。同時に、この行動はグローバルなムーヴメントである土地・空間の格差の問題、不当な退去命令の不条理に対しての結束・団結の表明でもある。暴力的な行動ではなく、アート表現の延長としての、平和的なプロテストだ。

 We See Youが占拠した物件の管理会社であるTurnkey365は、ケープタウン周辺のリゾート地域にある2000以上の高級ヴィラのレンタル事業などを行うCapsol Groupの関連会社。Turnkey365のウェブサイトによると、同社はキャンプス・ベイや隣接するビーチリゾートに約40の一棟貸しのヴィラを管理している。一泊の宿泊価格帯は、1000ランド(約6,400円)台から4万2,000ランド(約27万円)台までと幅広いが、基本的には海岸沿いの一等地に立つ高級ヴィラのようだ。プロテスト開始当初、同社はWe See Youのプロテストに理解を示していたとの報道もあるが、同社の9月22日のプレス発表では、意図を隠して予約するという不誠実な行動や、「無期限」の滞在、スタッフの侵入防御などといった行為は、彼らのオペレーションやスタッフの労働を阻害するとし、また25日からの予約に対応するために、24日午後5時までに退去するように要求した。

 We See Youは、この退去要求を無視して滞在を続けたため、議論は法廷に持ち込まれた。10月2日、ケープタウンの高等裁判所で司法裁判が行われ、モゴアヂ・ドラモ(Mokgoatji Dolamo)裁判官が、We See Youに10月8日正午までに、ヴィラを退去するように命じた。管理会社側は、即日退去を要求していたが、We See You側に数日間の猶予が与えられ、また期日までに退去すれば損害賠償の請求はなしという判決が下された。5日に出された、We See Youによるプレス発表によると、彼らはこの判決に対して「小さな勝利」という表現をしている。彼らは弁護士を立てることができなかったにもかかわらず、次の入居先が見つかるまでの猶予が与えられたこと、約5万ランド(約32万円)の損害賠償金の支払いを免れたことは、プラスの結果だったに違いない。We See Youは、判決に従い8日にヴィラを退去した。

Text by MAKI NAKATA