カナダの先住民患者、看護師らから侮辱 FBに動画投稿 直後に死亡

ジョイス・エチャクワンさんの夫、キャロル・デュべさん|Paul Chiasson / The Canadian Press via AP

◆先住民団体、「明確な人種差別である」と発表
 この人種差別的な行為はカナダ中で強い批判を呼び、多くの先住民団体を筆頭に全国各地で抗議活動が開始された。エチャクワンさんが住むマナワン村のアティカメク族評議会は、「先住民族に対する明確な人種差別である」との声明を発表した。また先住民団体ファーストネーションズ・ケベック・ラブラドール会議の長であるジスラン・ピカード氏も、エチャクワンさんの事件と同様の差別が国内で日常的に起こっていることを指摘した。

 カナダのトルドー首相は、この事件は「構造的差別の一例であり、カナダにおいて到底受け入れることはできない」と語り、早急に調査を進めると発表した。ケベック州のルゴー首相も、看護師らの発言について「許容できるものではない」と非難。事件から1週間後には、州の公共サービスに問題があったとしてエチャクワンさんの家族に謝罪した。しかし、構造的人種差別があったかどうかについては否定する姿勢をとった。

◆先住民族の女性が犯罪にあう確率は12倍
 この事件はカナダ国内外で衝撃をもって報道された。CBCは、事件の1年前に発表された、先住民族への虐待に関する調査報告書について言及した。報告書では、ケベック州内の先住民族が病院を含む公共サービス利用時に構造的差別の被害を受けていることは「否定できない」と結論づけられており、あらゆる公共サービスでの改善が求められていたにもかかわらず今回の事件が起きてしまったことを伝えた。

 アメリカの週刊誌ピープル(電子版)はエチャクワンさんの事件を取り上げ、多くの人が「もしエチャクワンさんが動画撮影をしていなかったら、事件に関与した看護師らが処罰を受けることはなかっただろう」と指摘していることを報じた。

 BBCは事件の概要とともにカナダ国内の先住民族差別の背景を伝え、とくに先住民族の女性が犯罪に巻き込まれる割合の驚くべき高さを報じた。2019年に発表された調査結果によると、カナダ国内において先住民族の女性が殺害される、または行方不明になる割合は、先住民族ではない女性と比べて12倍も高い。その原因は、根深い植民地主義思想と国家の怠慢にあると述べられている。

Text by 中原加晴