人為的にコロナに感染させてワクチン開発 チャレンジ治験に賛否

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◆モラルに反する? WHOは後ろ向き
 新型コロナのチャレンジ治験は、倫理的、実践的な理由から、激しい議論を巻き起こしている。世界保健機関(WHO)は、重要な情報を得ることができるとしながらも、ウイルスにより重篤、致死的な病気が引き起こされる可能性があり、感染力も高いことから実施に消極的だ。WHOの諮問会議によるレポートでは、行うとすれば重篤化や死亡のリスクが最も少ない18歳から25歳の健康な人に限定すべきだとしている(ニューヨーク・タイムズ紙、NYT)。

 諮問会議では、新型コロナでは特効薬が見つかっていないため、それなしでチャレンジ治験を行うことへの賛否が分かれたという。実はこれまで、コレラ、マラリアなどでチャレンジ治験は行われているが、治療薬は存在している。さらに、チャレンジ治験がワクチン開発のスピードを早めるという主張に対しても、すでに自然に感染するリスクの高い地域での治験は開始されているため、不要という意見もあった(サイエンス誌)。

◆若者は大丈夫? 未知のリスク大
 チャレンジ治験を支持する専門家は、参加者を若い世代だけに絞れば大丈夫だという意見だ。治療薬はないが、複数の対策を用意し、事前にリスクを十分説明しておけばよいとしている。若者が自然に感染する可能性は大きく、それならば治験に参加して感染し、症状が出たときに手厚い治療が受けられるほうがいいという考えまであるという(NYT)。

 ニューヨーク大学の生命倫理学者、アーサー・L・カプラン氏は、通常1つの治験には2万人から3万人の参加者が必要になると指摘。数多くのワクチンの治験が行われれば参加者探しが難しくなるが、チャレンジ治験なら少ない人数でより早くワクチンの有効性が確認でき、ダメなワクチン候補を早く排除し、より期待のできるものに注力できると主張している(同上)。

 チャレンジ治験に反対する人は、まだ新型コロナについては未知の部分が多く、参加者に十分な説明ができないと主張している。また、少人数の治験ではまれな副作用などが見逃されがちで、ワクチンが数百万人に投与されてから判明したのでは遅いとしている。さらに、チャレンジ治験は一般市民からは手抜きの手段と捉えられ、ワクチンへの信頼低下につながる恐れもあるとヴァンダービルト大学の感染症専門家、ウィリアム・シャフナー氏は懸念を示している(同上)。
 
◆フェイズ3間近 チャレンジ治験はあるのか?
 米国立衛生研究所では、最近になってワクチンとその他の予防法の開発のための治験ネットワークを立ち上げたが、USAトゥデイ紙によれば、すでに13万8600人以上のアメリカ人がボランティアとして治験参加に登録したという。これにより、初秋までにはフェイズ3の治験に入りたいとしているモデルナ、ファイザーとBioNTech、アストラゼネカ、イノビオの4社のための治験参加者は少なくとも確保できたということだ。

 米国立アレルギー・感染症研究所所長で、ホワイトハウスの新型コロナ・タスクフォースのアンソニー・ファウチ氏は、アメリカで感染が広がっていることもあり、当面はチャレンジ治験の必要はないという考えを示した。政府の研究者も、通常の治験に向けて準備中ということだ(NYT)。1 Day Soonerの共同設立者ソフィー・ローズ氏は、もし通常の治験がうまくいかなければ彼女たちの出番になると見ており、有効な治療薬が出てくれば、さらにチャレンジ治験への熱意が高まるのではないかとしている(サイエンス誌)。

Text by 山川 真智子