ベルギーで人気「スマイリングマスク」 日本で流行はハードル高い?
◆口元を隠すのは日本女性のたしなみ
このスマイリング・マスク、筆者の私見ながら、日本では仲間内の集まり以外では使われにくいように思える。というのも、日本では大口を開けることは、とくに女性の場合「みっともないこと」だという意識が残っているからだ。実際、日本女性が笑う時に口元を隠す動作は、非日本人には奇異に映るようで、外国人向けの日本文化紹介サイトなどで、よく取り上げられている(『ビブリブログ』「知っておくべき日本の所作10」)。
『ノーティルジョン』は、「なぜ日本人女性は、笑うときに手を口の前に置くのか?」と題した記事で、「なかには、(笑うときだけではなく)発言する際も、必ず手を口の前にもってくる女性がいる。日本人の目には、これが優雅に洗練されたものと映るのだ」と説明している。同サイトが例に出すように、年配の女性だけでなく、若い世代やアニメの主人公にも同様の動作が見られるのは興味深い。口元を隠すのは「たしなみ深く」、大口を開いたり、歯を見せたりすることは「はしたない」という価値観は、我々の意識下に深く残っているのだ。そう考えれば、せっかくマスクで隠せる口元を、わざわざプリントアウトして人目に晒したい日本人が多いとは思えない。
◆白いマスクは人間らしさの欠如
欧州では逆に、白マスクをつけることで没個性となるのを嫌う傾向がある。ド・ベルフロワ氏も「いわゆる“医療”マスクはしばしば“非人間的”とみなされる」と述べる(フランス3)。つまり、スマイリング・マスクをつけることで、マスクで隠れてしまう「人間らしさをプラスできる」と考えるのだ。
パンデミックにより、現在、欧州はどの国も、おもに公共の場で、マスク着用を推奨したり義務付けたりしている。続々と発表される世界の研究を見ても、マスク着用に一定の感染予防効果があることは明らかである。それにもかかわらず、いまだに欧州では、着用義務でない限り基本的にマスクはつけないという人は少なくない。なぜそこまでマスクを嫌悪するのか、日本人としては理解に苦しむ態度と言えよう。
もしかしたら、欧州では、いまもなお「空白嫌悪(オロール・ヴァクイ)」が人々の意識下に残っているのではなかろうか。「空白嫌悪」とは、日本の「余白の美」の対極にあるといえる感覚で、隙間もないほど壁一面に絵を飾ったり、絵の余白を残すことなく文様で埋め尽くすところに観察される。これはまったく筆者の想像に過ぎないが、口元を覆う白いマスクは、虚無への入り口に見えるのかもしれない。
ところで、英語やフランス語の「マスク(mask/masque)」の第一の意味は、日本語で言うところの「お面」である。日本語の「マスク」の意味で使うときは、「外科用」とか「医療用」と定義するのが普通だ。そう考えると、スマイリング・マスクは、日本語でいう「マスク」を、本当の意味でのmask(お面)に近づける方法ともいえるであろう。
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