「コロナ勝利宣言」のニュージーランドのジレンマ

Mark Baker / AP Photo

◆オーストラリアとのトラベル・バブル構想
 ところで、ニュージーランドの最大の輸出業はインバウンド観光である。ニュージーランド観光局によれば、その収益は輸出業全体の21%を占める。観光業に従事する労働者は23万人近く、これは全就業者の8.4%にあたる(2019年3月時点)。

 国境封鎖により同国のインバウンド観光が大打撃を被ることは必至で、それを見越したニュージーランドは、かねてよりオーストラリアと「トラベル・バブル」を作る構想を練っていた。トラベル・バブルとは、「隔離なしに移動できるゾーン」(BBC 5/5)のことで、両国以外に太平洋諸島を加えることも検討されていた(CNN 5/4)。ニュージーランドとオーストラリアは隣国であるだけでなく、ビザ免除で国民の往来や就業を許可し合う「特別な関係」を持つ国なのだ。実際、CNNによれば、2019年ニュージーランドに入国した外国人の40%近くがオーストラリア人で、オーストラリアに入国した外国人の15%はニュージーランド人が占めていた。トラベル・バブルの形成は、痛手を負う観光業へのカンフル剤になると誰もが思ったであろう。

◆国境封鎖も開国も両刃の剣
 ところが、Covidフリーを実現したことで、トラベル・バブル・プロジェクト実現が先に追いやられた可能性がある。CNN(6/8)によれば、ニュージーランドのアーダーン首相は6月8日、(トラベル・バブル構築までは)まだ数ヶ月かかるかもしれないと発言した。同首相は「(オーストラリアの状況は)州ごとに改善しているが、まだ全体的なものではない」と考えているのだ。

 厳しいロックダウンを乗り越えてやっと手に入れたCovidフリーの栄誉だが、国境を開けば、元の木阿弥になるのではと憂慮する声は少なくない。実際、Covidフリー宣言の一週間前に書かれたニュージーランド・ヘラルドの記事にも、いつ「どの国を対象に」開国するのか。開国後の「(新型コロナウイルスを)インポートしてしまうリスクは?」「我々は急激な状況変化に機敏に対応できるか?」「国境でのコントロールとテストでリスクを軽減できるのか?」「国境でのコントロールがうまく行かなかった場合、感染の連鎖を断ち切るには、これまでより強固なテストと追跡が必要となる」といった見出しが並び、祝賀気分はなく、悲壮感が漂うように感じられる。

 同国のニュースサイト『スタッフ』(6/9)も、「アーダーン首相の提唱する“ニュージーランド産のものを買い、遊び、体験する”」作戦だけでは、「海外からの訪問者の損失を埋め合わせることはできない」としながらも、「(海外との行き来の復活は)他国のCovid-19に関する数値に強い信頼を置く必要がある。また、他国における国内統制が、我が国と同じくらい厳格であると信用することも必要とする」と述べ、開国の実現が容易でないことをうかがわせる。

 皮肉にも、新型コロナ駆逐の快挙が、ニュージーランドの鎖国をさらに長引かせることになるかもしれない。

Text by 冠ゆき

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