子供は感染しにくい、広げないは本当か? 学校再開の是非で議論

Ennio Leanza / Keystone via AP

◆食い違う調査結果 決定的証拠なし
 スイス当局者のような考え方は、子供からの感染が大人に比べてはるかに少ないというさまざまな研究や調査の結果を反映したものだ。1月に欧州でのスキー旅行で感染したイギリス人の少年からは、接触者72人のうち誰にも感染がなかった。また、10歳以下の子供が感染させた例は一つも見当たらないという研究結果も発表されている。すでにデンマーク、イスラエル、ドイツなどで学校が再開されており、ほかの国々でも再開が予定されている(サイエンス誌)。

 学校再開は子供の教育にとって大切で、仕事をする親も待ち望んでいることだ。しかし、子供からの感染は少ないとはいえ、早期の学校再開を懸念する声もある。イタリアの疫学者、Marco Ajelli氏が中国の研究者と共同で行った研究では、子供の他者との接触は大人の3倍もあるとされ、たとえ大人の3分の1しか感染しないとしても、子供を家に置いておくことは中国での感染の波を抑えるうえで有効だったと結論づけられている。同氏は、学校再開が感染急増につながると警告している(同上)。

 シアトル子供病院のダニエル・ゼール氏は、症状が重くなくても子供がウイルスをばらまくことは可能で、症状の有無にかかわらず、鼻や口にウイルスがいる限り、キャリアにも媒介者にもなり得ると述べる。ドイツ政府のアドバイザーでもある疫学者のクリスチャン・ドロステン氏は、子供と大人のウイルス量を調べた結果、大きな違いはなかったと査読前の論文で発表している(Vox)。

 英レディング大学の細胞微生物学者、サイモン・クラーク氏は、これまで発表された子供の感染についての研究には決定的なものはなく、早急な学校再開で第2の波を招く可能性もあるため、判断は慎重を期すべきだとしている(CNN)。

◆データ不足 学校再開後の調査に期待
 サイエンス誌は、感染における子供の役割に関しエビデンスがうまく上がってこない理由として、①各地で早々に学校を閉鎖してしまったため、ウイルスが子供たちの間でどのように伝播していくのか調べるのが困難だった、②検査できる数に限界があり大人や医療従事者の検査を優先したため、症状のない子供の検査ができなかった、③リアルタイムで感染を把握するためには多くの子供の追跡が必要だがそれが容易ではない、の3点をあげている。

 実際の子供の役割を特定するため、調査に乗り出した研究者たちもいる。アメリカでは2000世帯、カナダでは1000世帯を対象に、数ヶ月にわたりリアルタイムで子供たちとその家族を追跡し、週1回の鼻腔をぬぐう検査、症状チェック、日々の問診を行う。学校再開とロックダウン規制解除後の感染の実態を調べることが目的で、オランダでも同様の調査が進んでいる(サイエンス誌)。

 もっともすでに学校を再開した国では、もうじきさまざまな事実が判明するとサイエンス誌は見ている。もし子供がウイルスをばらまくのであれば、感染者数は数週間のうちに急増するはずだ。自然に実験が進んでいるともいえ、その結果に注目が集まりそうだ。

Text by 山川 真智子