NY州「14%に抗体」どう見るか 分かれる専門家の意見 真の感染明らかに?

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◆結果は正確? 専門家の意見分かれる
 抗体検査は、これまでほかの地域でも行われてきた。新型コロナウイルス感染が2月に行われたカーニバル以後、急拡大したとされるドイツのガンゲルトでは、住人500人から採血を行い、14%に抗体があることがわかった。そのなかにはまったく症状がない人もいたということだ(MITテクノロジー・レビュー)。

 スタンフォード大学の研究者が北カリフォルニアで行った抗体検査では、公式発表の85倍の感染者がいる可能性が示された。また、南カリフォルニア大学がロサンゼルス郡で行った検査では、これまで報じられていた数の55倍の感染者がいるかもしれないとされた。もっとも、これらの調査は偽陽性を適切にカウントしていないことで結果に疑問が残るという批判もでている。また、スタンフォード大学の調査の場合は、フェイスブックに広告を出し参加者を募ったため、自分が感染していると心配している人が多く応募してきた可能性があり、データバイアスが疑われている(NBC)。

 NBCによれば、ニューヨーク州で使われた検査は同州保健省の公衆衛生研究所、ワズワースセンターが開発したもので、検査の特異度(正しく陰性が出る確率)は93~100%だという。感度(正しく陽性が出る確率)は記載されていない。ワシントン大学の生物学者、カール・ベルグストロム氏は、ニューヨークの抗体検査の結果は死者の数からすれば妥当だとする。一方マウント・サイナイ医科大学のワクチン学者、フロリアン・クラマー教授は、感染率は高すぎると述べ、情報が少ないのではっきりとは言えないが、6~8%、10%近くというのが実態ではないかとしている。

◆やる価値はある ロックダウン解除に向けた指標にも
 もっとも、抗体検査は公衆衛生当局にしてみれば感染の規模を把握する上で価値があるものだ。ウェブ誌『Vox』は、抗体検査により、人口あたりどのぐらいの人が感染しているのか、どのように感染が広がっていったのか、そしてより正確な致死率が明らかになるとして期待を寄せている。

 フロリダ大学の生物統計学者、ナタリー・ディーン准教授は、いま見つかっている感染者は氷山の一角であり、その下にはかなりの見逃された人がいると述べる(NBC)。こういったこれまで見えなかった感染者がどのぐらいいるのかを把握することで、病気の深刻度を測ることができるとしている。たとえば、ニューヨークの致死率は7%以上とされてきたが、先の抗体検査の結果が正しいのであれば、致死率は0.5~1%(ただし病院経由で報告された死者数のみをもとに計算)だ。前出のガンゲルトの調査でも、致死率は0.37%と見積もられており、ドイツで報告された2%をはるかに下回っている(MITテクノロジー・レビュー)。致死率0.1%とされるアメリカの季節性インフルエンザよりは高いものの、新型コロナの致死率は、抗体検査でこれまでよりぐっと下がる可能性がある。

 米NBCは、どのぐらいの人々が感染しているかを理解することは、厳しいソーシャルディスタンシング対策を緩和するためには重要だと述べる。また、PCR検査と接触者追跡を強化することで、第2派襲来の際には感染の拡大を抑え、医療崩壊を防ぐことに役立つだろうとしている。日本でも厚生労働省が抗体検査実施を検討していると報じられており、そのゆくえが注目される。

Text by 山川 真智子