感染症リスクも、市場の野生動物を食べたい……新型肺炎と中国の食文化

Xinhua, Liu Dawei / AP Photo

◆珍重される野生動物、SARS後も消費続く
 SCMPによれば、SARSの発生で野生動物の消費は低下したという。2006年にアメリカと中国の野生動物保護団体が、中国16都市に住む2万4000人を対象に行った調査によれば、70%が前年は野生動物を食べなかったと回答した。逆に言うと、まだ30%は野生動物を食べていたということになる。

 中国人にとって野生動物を食べることは富の象徴だと、カナダのウォータールー大学の博士研究員、Zhenzhong Si氏はNPRに説明する。野生動物は珍しく高価だ。またよりナチュラルだと考えられており、家畜より栄養豊富だと思われているという。伝統的な漢方では、野生動物を食べることで免疫力が高まると信じられている。農場で育った動物より、野生のほうがよいという価値観は各地に根付いており、変えるのは難しいということだ。

◆スーパーはかなわない 市場の魅力とは
 衛生面に不安があり、取り締まりしにくい生鮮市場自体を廃止すれば、感染症の脅威は低下すると考えられるが、市場は庶民の生活に直結しており、解体は困難だとSi氏は話す。中国の都市では、新鮮な農産物や肉類を手に入れる場所として圧倒的に人気が高く、大都市なら数百の生鮮市場があるという。政府は市場を近代的なスーパーに変えようと試みてきたが、低価格の市場に勝つことはできなかったという。また、市場ではその場で鶏などを絞めてくれるサービスもある。新鮮な肉はスーパーの冷凍肉よりずっとおいしいという消費者の声をブルームバーグは伝えている。

 さらに市場は都市のライフスタイルの一部でもある。人々が集まり会話をする社交の場でもあり、多くの人がスーパーよりも市場での買い物を好むということだ。

 春節を前に、生鮮市場は新鮮な肉を求める人で賑わう。しかし中国情報サイト『Shanghaiist』によれば、河南省など、生鮮市場での生きた家禽の販売を停止するところも出てきており、新型肺炎の感染拡大で、お祝いの料理にも影響が出ることは必至だ。

Text by 山川 真智子