世界的に炎上した「インド料理はまずい」ツイート 批判殺到、人種差別議論にも

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◆ネタのつもりが大炎上 ソーシャルメディアの構造、恐るべし
 予期せぬ反応に、ニコルズ氏はUSAトゥデイ紙で自身の意図を説明している。「最も物議を醸す食べ物」というお題に対して、たいしたものが出ていなかったため、金メダル狙いで「インド料理はまずい」とツイートしたと同氏は述べる。さらにうっとうしくするため、本当は誰も好きではないという内容をつけ加えたという。本人はインド料理が苦手で、おいしいと思ったことはないそうだ。

 初期のリアクションは、温厚で面白いものばかりで、ツイッター界の知り合いや友人からの突っ込みコメントもあって和やかだったという。ところが次第に、善意ある、しかし見当違いの人々から大量のインド各地の料理のリストが送られてくるようになり、これを全部食べれば意見も変わると諭されたという。さらに、「我々はそうじゃない(まずくない)ふりをしている」という言葉を加えたことに、悪意を見出す人も出てきた。怒りを露わにした批判が殺到し、インド人のステレオタイプや、抑圧された歴史などにも話題は及んだ。ある女性は、チャーチルと植民地主義、大英帝国におけるインド人の扱いをも議論の対象としてきたという。

 これは狂気の沙汰で、怒りが吐き出されれば元に戻ると思っていたが、数日後には自分の話がインドの新聞やBBC、ワシントン・ポスト紙にまで真面目に取り上げられていた。唯一最も敵対的であるはずのロシア政府の下にあるロシア・メディアのRTだけが、ジョークを交えて報じてくれ、世界は不思議だと同氏は感想を述べている。

 ジョークを説明することほどつまらないことはないという同氏だが、自分は10億人のインド人が、嘘でインド料理が好きと言っているとは思っていないとする。あくまでも好きでもない「正統派」料理を食べて、おいしいふりをするアメリカの食通をいじってやろうとしただけということだ。

 今回の出来事で、ニコルズ氏はソーシャルメディアの功罪を思い知ったという。戦争状態を維持するため、全体主義国家が市民と外国人の非接触にこだわったジョージ・オーウェルの『1984』の世界に言及。ソーシャルメディアでつながった社会は平和のための力になると考えたこともあったが、実は悪意のある受け止め方に報い、目の前を通過するものすべてを大真面目な事件として扱うのがソーシャルメディアだと同氏は述べている。

◆インド人もパス? 結局味覚は人それぞれ
 ニコルズ氏のツイートによってインド人のツイッター界は騒然となった。BBCによれば、インドのメディアでは#MyFavoriteIndianFood(私の好きなインド料理)のハッシュタグがトレンド入りした。

 ウェブ誌『クオーツ』は、そもそも料理の好みは国内でも違いがあり、すべてのインド人がすべてのインド料理を好むはずはないと考え、インド人スタッフやライターに嫌いなインド料理を尋ねた。すると、メインディッシュから薬味、スナックにいたるまで次々と苦手料理が上がってきたという。

 結局食べ慣れないインド料理はインド人でも嫌いということのようだ。同誌は、ニコルズ氏の「インド料理まずい」がどこの料理を基準にしたかは問題ではないとし、味の好みは国内でも違うのだから、外国人で口に合わない人がいるのは当たり前だろうと述べている。

Text by 山川 真智子