中国、米紙の記者を追放 習首席いとこの記事を執筆 ビザ更新せず

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◆非難噴出 ジャーナリズムの危機
 欧米メディアは、今回の中国の対応に一斉に反発している。中国外国記者協会は、今回の対応は中国政府にとって好ましくない事実に基づいた取材をする報道機関を罰するための、中国当局による極端な試みだと批判。海外特派員はプロパガンダ・ワーカーではなく、このような扱いを受けるべきではないとしている。また、開かれた非排他的な中国という政府の主張と完全に食い違うのではないかとも述べ、2022年の冬季五輪など、世界的イベントのホスト国としての中国にさらなる懸念が生じるとしている。

 当事者であるWSJは、習政権は国内での情報統制に加え、政治的に敏感な問題や、国家のイメージや国益にとって有害となる報道をさせないように、海外メディアにも圧力を強めていると指摘する。同紙のマット・マレー編集長は、自社のジャーナリズムは公平で正確だとし、今後も読者が期待するいつもどおりの高い水準で、中国の重要な事件を報じていくと表明している。

 ニューヨーク・タイムズ紙(NYT)の国際版編集者マイケル・スラックマン氏は、中国政府を非難するとともにWSJの仲間を支持すると表明。力のあるものが記事への報復としてビザ更新を拒否するのは国際基準に違反し、受け入れられないとした。今回の行為は情報の自由な流れを阻害し、究極的には中国国民から情報を奪うことになるとしている。

◆過去にも数々の見せしめ 圧力ますます強化
 NYTは、中国が海外ジャーナリストに対しての締め付けを強め始めたのは2012年ごろだとし、英語版アルジャジーラのアメリカ人ジャーナリストが追放された事件を紹介している。その後2015年には新疆について報じたフランス人記者が、2018年8月には新疆のウイグル人の監視と大量収監について書いたバズフィード・ニュースのアメリカ人記者が追放となった。

 NYTとブルームバーグは、2012年に温家宝氏と習主席の親族の財産について報道した後、記者のビザ更新を却下された経験を持つ。また、中国ではWSJの中国語ウェブサイトは過去5年間ブロックされ、NYT、BBC、ロイターなどのサイトも定期的もしくは長期にわたってブロックされている。さらに今回の習主席のいとこの記事以来、WSJの中国国内のSNSアカウントは説明もなく閉鎖状態だという(WSJ)。

 今年は香港のデモなどで外国メディアの報道も過熱している。中国政府のジャーナリストに対する圧力はますます厳しくなりそうだ。

Text by 山川 真智子