香港議会占拠、中国が動く口実に? 報復と人心離反を招く危険性

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◆暴力は格好の言い訳 中国政府、腰を上げるか?
 中国の香港・マカオ連絡事務所は、議場への突入は「非常に過激」な行いだとし、「暴力的違反者への刑事制裁」を支持すると表明している。香港侵会大学のジャン・ピエール・カベスタン教授は、これはキャリー・ラム行政長官への指令とも受け取れ、これまでになく強烈だった1日の抗議行動によって、中国政府はより積極的に、また抑圧的になる理由を手にするだろうと述べる(ワシントン・ポスト紙、以下WP)。

 前出のチェン氏によれば、若者たちが議場に突入する前に、警官たちの姿が現場から消えていたという。よく訓練された香港警察が主要な政府庁舎を守れなかったはずはなく、わざと破壊行為を見逃すという罠ではなかったのかという説もあるという。同氏は、中国政府は共産主義が崩壊した国々から教訓を得ており、それはトラブルの元は早めに摘むということだと述べている。(インデペンデント紙)。

 WPによれば、常套手段は、抗議活動のリーダーを逮捕勾留し、起訴手続きを長引かせることだ。これにより、香港の市民社会を抑え込み、活動家には二度と同じことをしないよう促すという抑止効果になるという。雨傘運動ではこの手法を使い、民主化運動は下火になった。

 しかし今回破壊行為を行った若者のなかには逮捕も死も恐れていないというものもいた。過激な若者の多くは貧しい家庭の出身で、不平等な社会に希望を失っている。社会不安の原因となる持たざる層に対応するよう中国政府は香港政府に求めているが、早急な解決策はなさそうだ。さらに、香港政府の正当性を問う声や普通選挙への要求といった中国には譲歩不可能な問題もある。結局社会不安を解決するには、政治的な構造改革しかないのではないかと、親中の政治家でさえ述べている(WP)。

◆大陸の武力行使も? もう後がない香港
 香港議会議員でラム行政長官のアドバイザーでもあるロニー・トング氏は、デモが悪い方向へ転じ、暴力が町中に広がって、警察が抑えられない事態になることを恐れている。そうなれば人民解放軍の投入もあるのではないかとし、一国二制度の崩壊を懸念している(WP)。ロイターは、しばらく中国は米中貿易戦争で忙しかったが、今後は連絡事務所を拡張し、支配力を強めてくるのではないかとしている。

 ガーディアン紙は、何もしなければ侵食は続き、抵抗すれば報復を招くという、香港の根底にあるジレンマはまったく変わっていないと述べる。香港が自らいまの力学を変えることはできず、いまできるのは、いつか中国が変わることを望みながら、現状を長引かせる最適な方法を問うことだとし、打つ手のない香港の苦悩を伝えている。

Text by 山川 真智子