最新DNA解析で明かされる十字軍の実態 「聖戦」の残忍さも浮き彫りに

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◆歴史資料の裏づけに欠かせないDNA調査
 十字軍をめぐる歴史的経緯は有名だが、極めて階級の高い関係者についての記録しか残っていない。インデペンデント紙は、研究に参加している英ウェルカム・サンガー・インスティテュートのテイラー=スミス博士の言葉を引用し、一般の兵士たちに関しては詳細な資料がほとんど存在しないと指摘している。記録の不足している分野だからこそ、遺伝子研究によって今回のような新規性のある発見に繋がる可能性は高い。

 テレグラフ紙も博士のコメントを掲載し、DNA調査の意義を強調している。博士によると、歴史資料が現存していたとしても、細部には詳しくとも大局的見地を欠いていたり、政治的にバイアスがかかっていたりするケースが多い。そこで補足資料としてDNA解析を行うことで、資料の正確さを検証することが可能になる。歴史や考古学の分野での活用は盛んになってきており、今後さらなる応用が期待されるという。

◆敵陣めがけて生首を射出
 今回調査が行われた遺構からは、DNA解析によるもの以外にも興味深い説が生まれている。テレグラフ紙は、共同墓穴の付近で1個の頭蓋骨が単独で発見されたと伝えている。死後切断された頭部が敵によって投石機で十字軍陣に投げ込まれたものであり、病を広めたり士気を低下させたりするなどの目的があったのでは、と研究チームは見ている。

 さらにインディペンデント紙によると研究チームは、この行為が戦いの残忍さを示しているとも捉えているようだ。最新の発掘調査により、およそ2世紀にもわたった「聖戦」の知られざる一面が明らかになってきた。

Text by 青葉やまと