“ノマド”に転落したアメリカの老人たち アマゾン倉庫で働き、車で放浪生活

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◆過酷な労働環境。低賃金で未来も不安定
 このような人々の一団が、毎年秋になると、ネバダ州ファーンリーのオートキャンプ場に集まり、自給11.5ドル(約1,300円)の倉庫での業務に従事する。雇用するのは、アマゾンだ。秋からクリスマス前の繁忙期に、季節労働者として、各地の倉庫でノマドを雇い入れているという。彼らの業務は、商品を探し配送準備をすることだ。歩き回り、身をかがめ、しゃがみ、商品を引っ張り出し、階段を駆け上る。1日のシフトは10時間以上で、固いコンクリートの床の上を、1日に15マイル(約24キロ)以上歩くこともあるという(ガーディアン紙)。32度の暑さの中、50ポンド(約25キロ)の商品を持ち上げることもあり、倉庫には無料で市販の鎮痛薬が用意されているとのことだ(NYT)。

 クリスマスが終わって仕事がなくなると、ワーキャンパーたちは次の場所に移動する。彼らの仕事は、農場での果物摘み、球場でのハンバーガーやビール売り、砂糖大根の運搬、油田の警備など多岐に渡り、いずれの労働も共通して長時間低賃金だという(NYT)。ロサンゼルス・タイムズ紙(LAT)は、その多くが金銭的に余裕のない生活を送っているとしている。肉体的にも重労働であることが多く、持病を抱えている人もいる。健康不安に加え、所有する車の老朽化、修理も悩みの種だ(NYT)。

◆自由な生き方? ただ不平等は広がり続ける
 ただ、ワーキャンパーたちは、自分達はこのスタイルの生き方を選択したのだと述べ、単なるホームレスとは違うと主張する。その中の1人は、「バンに住む住人は、壊れて腐敗した社会秩序から出た良心的な反対者だ」と述べ、どんなに選択肢が少なくても、自らの選択という部分がカギだとしている(LAT)。

 しかし、ブルーダー氏は、彼女が会った人々は、メインストリームの生活からやむを得ずはじき出されており、多くの良心的反対者は、消費社会で生きるため、人生の何ヶ月かを売り渡さざるを得ないと説明する。彼らが生きるサブカルチャーは、その回復力と社会悪への鋭い視点によって特徴付けられるが、彼らの物語が示唆するのは、これらの悪から真に逃れることはできないということだと指摘している(LAT)。

 米連邦の最低賃金は時給7.25ドル(約812円)で、この時給で働く労働者が借りられるアパートはあまりに少ない。それと同時に、平均所得を比べれば、上位1%が下位50%の81倍以上を稼ぐアメリカ社会にあるのは賃金ギャップではなく、もはや深い裂け目だと同氏は述べる。そして今のアメリカは先進国の中で最も不平等な社会であり、今後も悪化していくだろうとしている(ガーディアン紙)。

Text by 山川 真智子