銃社会スイス――民間に180万丁、人口比3位も少ない犯罪 その特殊事情

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 購入には州の許可(登録)が必要となる。『saldo』は、国内6つの州に問い合わせ、2012年から2016年の5年分の数値を掲載している。チューリヒ州での登録数は2012年が3千強丁だったのが、2016年は4800丁になった。チューリヒ州の隣のアールガウ州では、約2800丁から5117丁に、ベルン州でも3千強丁だったのが4487丁になった。残りの3つの州も、急激ではないが増加傾向を示している。

 こうして具体的な数字が公表されているものの、正確な全体の所有数は不明とされる。上記180万丁が推定値なのは、2008年以前に購入された銃や所有者が変わった銃が登録されていないからだ(登録は2009年から始まった)。

 銃購入が増えている状況はスイスの公共放送も注目していて、2017年3月にテレビでドキュメンタリーを放映した。公共放送の調べでは、購入が増えているのは、ヨーロッパ内のテロ事件や難民問題で不安を抱える人が増えたためだという。

 特筆すべきは、使える状態の銃がこれほどあっても、スイスでは銃を使った犯罪が驚くほどには多くない点だ。銃が使われて死者を出す事件は、毎年平均40件だ。銃は、いつでも警察に引き取ってもらえるから手放すのは簡単だ。それでも、こんなに保有しているのは、スイスでの銃所有を取材したイギリスBBCが書いているようにアメリカでは自分の護身のためで、スイスでは国を守ろうという意識がいまも強いからかもしれない。

 ただし、銃が身近にあることで、犯罪とは違った問題もある。自殺に使われるケースが多いのだ。これはスイス国内ではよく報道されていることで、『saldo』でも触れている。銃で自殺した人は年々減ってきてはいるものの、2014年は187人に上った。スイスの公共放送は、こうして亡くなる人の95%が男性で、20~39歳が多いと述べている。銃が身近にある限り、何らかの負の問題は避けられないようだ。

Text by 岩澤 里美