日本の歯ブラシ独自進化の裏には……? 歯磨き「だけ」で済ませたい日本人

上から、イギリスの歯ブラシ(コルゲート社製)、日本のレギュラー、超コンパクト、イギリスの4-6才用。

「海外で歯ブラシを買ったらびっくりするくらい大きかった……」というのは、よく聞く海外あるあるだ。実際に外国の人はどんな歯ブラシを使っているのか? 「外国の歯ブラシ巨大説」の検証を試みた結果、面白いことに、日本人と外国人の歯磨きに対する意識の違いが明らかになった。

◆コンパクト、超コンパクトは日本オンリー
 筆者はこの夏イギリスのドラッグストアを巡り、歯ブラシの大きさをチェックしてみた。想像を絶する巨大歯ブラシ発見の連続なのでは、と内心期待していたが、結論から言えば、一部の特大級のものを除き、その他は日本のレギュラーサイズとあまり変わらなかった。

 早くも検証が失敗に終わりそうになり焦ったものの、あることに気づいた。筆者はいつもコンパクトと呼ばれるヘッドが小さい歯ブラシを使用しているのだが、これがいくら探しても見つからないのだ。唯一見つけたヘッドの小さいものは子供用歯ブラシ。しかも日本の超コンパクトサイズよりも大きかった。最終的に理解したのは、「外国の歯ブラシが巨大」なのではなく、「日本の歯ブラシが小さすぎる」ということだった。

◆器用にコツコツ。コンパクト化は日本人向きだった
 日本のドラッグストアに行くと、「コンパクト」、「超コンパクト」歯ブラシが目につく。2011年の日経新聞には、ヘッドの小型化が進んだのは1980年代後半からで、歯周病への認識の高まりなどから歯を1本1本磨ける小さなヘッドが好まれるようになった、と書かれている。このあたりの詳しい事情を、ライオン株式会社のオーラルケアマイスター、太田博崇氏に伺った。

 太田氏は、コンパクト化が進んだ理由の一つとして、歯周病ケア以外に虫歯予防も含め、小刻みに動かすブラッシング法が国内の口腔保健指導のメインとなったことを上げる。奥歯の奥まで届く、口の中で動かしやすく操作性が良い、歯と歯の間までしっかり磨けるというコンパクト歯ブラシの長所が、推奨された磨き方に合っていたということだ。さらに、小さなヘッドを小刻みに動かす磨き方自体も、細かいことを器用に根気強くやるという日本人の国民性に合っていたのでは、と同氏は指摘している。

◆歯磨き好きと口腔衛生への意識の高さは比例しない
 それでは、なぜコンパクト歯ブラシは海外では普及しなかったのだろう。太田氏は、販売するメーカーがいて受け入れる生活者がいたからこそ、日本で市場が形成され、進化したと説明する。ところが、海外では供給側、受け入れ側のどちらか、または両方が、積極的にコンパクトを求めなかったのではないかと推測している。

 それならば、外国では歯の手入れに関心が薄いのかと思ってしまうが、コンパクト歯ブラシが普及しなかった欧米の口腔ケアに対する意識は、実は日本に比べ非常に高い。ライオンが2014年に発表した「日本・アメリカ・スウェーデン 3カ国のオーラルケア意識調査」によれば、日本は歯みがきだけで手軽に済ませたい傾向だが、アメリカとスウェーデンではデンタルフロスの使用率が50%を超え、複数のアイテムを使い念入りにケアしたい人が約7割と多数派だ。また、歯科医での定期健診受診回数も、年1~2回以上が多数派のアメリカとスウェーデンに比べ、日本は過去1年に一度も定期健診を受けてないと答えた人が半数以上だった。

 ここから考えると、欧米人がコンパクト歯磨きにたどり着かなかったのは、歯磨き以外にしっかりと必要な口腔ケアをしてきたからだと思える。逆に、こまめな歯磨きが得意なゆえに、日本人の口腔ケアは歯磨き中心となり、他の必要なケアが出来ていないのかもしれない。

◆細身からワイドへ。歯ブラシの進化は続く
 コンパクト主流の日本の歯ブラシ界で、新しいタイプも出て来ている。その一つが、ヘッドの幅を広くし、毛をぎっしりと詰めたワイドヘッドタイプだ。いつも以上に効率よく歯垢が落とせるため、小刻みにブラシを動かすのが苦手で、コンパクトでは逆に磨き残しができてしまうような人には適している。歯磨き好き日本人の歯ブラシは、今後もさらなる独自の進化を遂げていきそうだ。

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Text by 山川 真智子