米国は「景気後退」に入った? 分かれる意見、定義めぐり議論
◆定義をめぐる動き
景気後退の定義に関しては、実質GDPが2四半期連続で減少した場合に景気不況であるとする定義が広く知られている。米国の今年の第1四半期のGDP成長率は前期比年率マイナス1.6%、第2四半期の速報値は年率マイナス0.9%と、2四半期連続で減少というデータが発表されている。しかし米国政府はこの定義は公式なものではないと説明する。
ウィキペディアの「recession(景気後退)」に関する記事は、更新頻度が上がり始めた今年の7月から現在に至るまで少なくとも300回以上の更新履歴が記録されている。記事の冒頭や記事と別に更新されているディスカッションのページでは、訪問者への注意のメッセージも記載されている。米公共ラジオNPRによると、新しい編集者がウィキペディアのルールを無視した形で定義を何度も書き直すなどといった行為が見られたため、新規および未登録のユーザーが「景気後退」のページを編集できないように、同ページを部分的および一時的にブロックした。米国政府の公式見解とは逆に、ウィキペディアページのコミュニティメンバーの一部は、GDPの2四半期連続減少を景気後退の定義として強調しようとしたようだ。現在、定義の部分には「景気後退の定義は国や学者によって異なるが、一国の実質GDPが2四半期連続で減少することが、実質的な景気後退の定義として一般的に用いられている」と書かれたのち、米国(NBER)の定義、英国における定義についての解説がある。
◆読めない経済状況
定義をめぐるこうした動きの背景には、経済後退に対して人々が懸念しているという状況がある。米国の経済状況は、現時点では後退していなくても、後退に陥る可能性がゼロということではなく、それはホワイトハウスも認めている。7月時点での消費者物価指数(CPI)は、前年同月比で8.5%上昇。食料品とエネルギーを除いたコア指数は5.9%上昇に対して、エネルギーは32.9%上昇、食料品は10.9%上昇となった。続くインフレは家計を圧迫し、消費の減少は景気を後退させる。また、インフレ抑制のための利上げも、経済活動を鈍化させる。一方で、米国の労働市場はプラスのサインを示している。7月時点の統計によると、米国の失業率は3.5%と低い水準だ。元連邦準備理事会の経済学者クローディア・サーム(Claudia Sahm)はタイムとのインタビューで、こうした労働市場における好況を理由に、米国は景気後退を回避することができる可能性があるという見解を示した。
人々が不景気だと感じて将来のためにさらに消費を抑えることで、景気後退の悪循環を引き起こす可能性もある。米国政府は景気後退を認めないことで、景気後退を回避したいという狙いがある一方で、マスメディアやオンラインでは景気後退の不安を煽るような議論が展開されている状況だ。6月時点のデータでは米国の消費はまだ継続しているようだが、米国では中間選挙を控えていることもあり、景気後退をめぐる議論はこれからも続きそうだ。
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