WTOの「復興」なるか 新事務局長オコンジョイウェアラの構想
◆オコンジョイウェアラのWTO構想
WTOは、国家間のグローバルな貿易の規則を取り上げる唯一の国際機関だ。WTOの役割は、国際貿易が円滑に行われるように支援することで、加盟国による障壁の引き下げや交渉を進めるため、もしくは貿易紛争解決のためのフォーラムとして存在する。現在、117の発展途上国・地域を含む164ヶ国が加盟する機関だが、意思決定は基本的にすべての加盟国による合意形成によって行われる。公平性を維持するというプラスの側面がある一方、スピードある意思決定・実行力の面ではマイナスである。オコンジョイウェアラの事務局長選出も、8名の候補者のなかからの全加盟国による合意形成によって決定した。トランプ政権下の昨年10月時点では163ヶ国が合意するなか、米国が唯一、オコンジョイウェアラではなく、韓国のユ・ミョンヒ(兪明希)通商交渉本部長を支持。バイデン政権発足後の今年2月、バイデン大統領の支持表明と、ミョンヒの辞退によってオコンジョイウェアラの任命が確定した。
オコンジョイウェアラは任命にあたって声明を発表し、組織改革に向けた決意表明を示した。WTOの活動目的は、(貿易を通じて)何よりもまず人々の生活レベルを引き上げることであり、WTOの本質は人々であると明示した上で、パンデミック対策におけるWTOの役割を主張した。とくに、(先進国)政府が率先して自国民にワクチンを分配しようとするワクチン・ナショナリズムの動きと保護貿易を批判。現在、南アフリカやインドがCovid-19のワクチンと治療薬の知的財産免除を求めている。免除によって、自国でワクチンや治療薬を生産できれば、供給量やスピードが改善する可能性が高い。オコンジョイウェアラは「第三のやり方(The Third Way)」として、各国が必要な医療品の開発・生産に取り組めるように技術移転やライセンシングを行うなど、WTOの多国間協議の枠組みを活用した打開策の重要性を主張した。
さらに、貿易紛争の解決というWTOの機能についても改革の意志を表明。貿易紛争の解決は、その実行性の低さから非難されがちなWTOの評価されている機能の一つである。オコンジョイウェアラは「WTOのルール・ブックは時代遅れだ」とし、地域貿易協定や二国間協定などにならって、イーコマースやデジタル・プロダクトなどの取引が増加している現状にあったものに書き換えるべきだとした。また、グリーン経済・循環経済の支援についても言及した。
主要な国際機関のトップにアフリカ大陸出身の人物が選出されることはまだ少ない現状。しかし、同時期に世界銀行グループの一機関で、民間セクター投資に特化した活動を展開する国際金融公社(International Finance Corporation:IFC)の専務理事兼上級副総裁にセネガル人のマクタール・ディオップ(Makhtar Diop)が任命されたこともあり、国際機関における「アフリカン・アジェンダ」の議論の盛り上がりがにわかに期待される。アフリカの多くの国では、コモディティ依存ではなく、付加価値製品の生産と輸出により経済成長を進めたいところだが、いわゆるラスト・フロンティア市場であるアフリカには、他国から安価な製品が流入するというのが現状。自由貿易を推進しつつ、公平な競争・貿易を促進すべきWTOの立場も難しい。アフリカの視点を持った、オコンジョイウェアラがどのように多国間協議をリードするのか。先進国目線でもなく、途上国目線でもない、「第三のやり方(The Third Way)」が、どこまでWTO改革につながるか。彼女の実行力が期待される。
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