世界恐慌の大事な教訓を無視する、トランプ大統領の「アメリカファースト」貿易政策

Shutterstock.com

著:Charles Hanklaジョージア州立大学、Associate Professor of Political Science)

 ドナルド・トランプ大統領は、約2週間にわたるアジア周遊について「大成功」だと宣言した。しかし、経済史を振り返れば、疑念が生じてくるはずだ。

 アジア周遊の最中、大統領は、いわゆる「アメリカファースト」の貿易政策を推進し続けた。トランプ氏はあからさまにアメリカを保護主義へと向かわせ、貿易における単独主義がアメリカのためになると主張している。

                                                                                                                 

 ここに問題がある。トランプ大統領の貿易へのアプローチの根底にあるのは、グローバル経済の働きに対する誤解だ。約1世紀前、アメリカの政策立案者も同じ悩みを抱いていた。トランプ政権は世界恐慌から学んだ大切な教訓を忘れてしまっている。このままではアメリカ、そして世界に不幸な結果がもたらされるかもしれない、と経済学者が声をそろえていると言っても過言ではない

 トランプ氏が「アメリカファースト」の貿易を行えば、他の国々もそれに続くことになる。これは、誰にとっても悪いニュースだ。ハドリアン/ シャッターストック・ドットコム

◆アメリカと世界経済
 トランプ氏の「アメリカファースト」の姿勢は、世界で支配的な立場のアメリカが、貿易において自由かつ単独で行動できることを前提としている

 トランプ政権には残念だが、アメリカが経済的トップの地位にあるからといって、一方的な貿易政策から生じる恐れのある悲惨な結末から守られるわけではない。アメリカの行動に対する制約というのは、国際経済の基本的性質およびアメリカの世界貿易システムへの支配力低下によって生じるものだ。

 すべての参加者それぞれがシステムに存在する、というのが経済の標準的な原則だ。ある参加者がとった行動が、他者の対応につながる可能性が高い。つまり、賢明な政府なら、どの政策を採択するかを考える場合、自身の行動が他者の行動とどのような相互作用を生むのか、という難しい計算をしなければならないのだ。

「アメリカファースト」では、こういった計算ができておらず、アメリカの保護主義に対して貿易相手国がどのような対応をするのか、ということを考えていない。世界恐慌時のアメリカの議員が気づかぬふりをしていたことと同じだ。

◆「近隣窮乏化政策」
 1930年より以前、アメリカの貿易政策は、議会が一方的に決定していた。つまり、今日のような国際的な交渉はなかったのだ。

 すでに保護主義に傾いていた議員らは、世界恐慌の痛みへの対策として、何百という輸入品の関税を上げるという、かの悪名高いスムート・ホーリー法(1930年)を通過させてしまった。

 アメリカの産業と農業を国際競争から守ることで、世界恐慌の影響を緩和するための法令だったが、結果的に不景気を長期化させることになってしまった。アメリカの貿易相手国の多くが対応策として関税を引き上げる事態となり、国際貿易の停滞に大きく寄与することとなったのだ。

 幸いなことに、アメリカも世界も、この経験から教訓を得た。1934年の互恵通商協定やそれを引き継ぐ協定では、大統領に外国政府との関税引き下げ協定締結の権限を与えられており、アメリカの貿易政策はグローバルかつ戦略的となった。この新しいアプローチは1948年の「関税と貿易に関する一般協定(GATT)」、そしてそこからさらに発展した1995年設立の世界貿易機関(WTO)により、国際レベルで制度化された。

 これらの協定の基本原則は、各国が「他国が自由化するのと同じ範囲内で、貿易を自由化する」ということに同意する互恵関係だ。このアプローチでは、保護主義的な政治的圧力を克服するために国際交渉を用い、貿易は国家間の相互依存を生み出すグローバルな現象であると認識している。

◆歴史を無視する危険性
 ようやく歴史を無視することの危険性が明らかにされ始めてきたところだが、我々に都合の悪い兆候を示す状況が、最近いくつか見られる。

 トランプ政権が最初にとった行動の1つが、アメリカによるTPP(環太平洋パートナーシップ協定)脱退だ。TPPはオバマ政権の主要なイニシアチブで、実現していたらアメリカ経済と11の太平洋諸国の経済を結び付けることにより、世界最大の経済圏を創出していただろう。また、中国が地域経済秩序に仕掛けるあらゆる挑戦に対し、アメリカ主導でアジアにおける自由主義の防壁を作り出していたはずだ。

 TPPを離脱したことで、アメリカの輸出業者は外国市場へのアクセスを強化できなくなり、中国に向けてアジアにおける影響力を贈ってしまったかたちだ。しかし、今我々が見ているのは、トランプ大統領の決定が及ぼす長期的な影響の始まりに過ぎない。

 トランプ氏の周遊期間中、アメリカ以外のTPP参加国11カ国(日本、オーストラリア、カナダ、メキシコなど)は、アメリカ抜きで協定を推進することで合意した。これはアメリカにとって問題だ。なぜなら、これらの国々が優先的に互いの市場にアクセスすることになり、アメリカ企業の競争が困難なものになる。

 貿易協定から外れることで何が起こるのか、アメリカの企業はすでに感じている。たとえば、先日のニューヨークタイムズの記事では、EU・カナダ包括的経済貿易協定が締結された結果、カナダのロブスター生産者が価格を下げているため、アメリカの生産者が窮状にあえいでいることが明らかになっている。

 アメリカが多国間貿易協定への参加を躊躇する場合、他の国々がアメリカを排除し、さらには傷つけるインセンティブを有することになる。

 トランプ大統領は北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉に向けて継続的に取り組んでいるが、これもまた潜在的な危険をもたらすものだ。トランプ政権は、再交渉について、条件に関する決定権があるかのように語る傾向がある。カナダとメキシコは、アメリカに比べて協定参加国(アメリカ)への依存度が高いかもしれないが、NAFTAが崩壊すれば、北米の貿易に依存する多くのアメリカ産業にとって大打撃になるだろう。NAFTAが再交渉を乗り切れないのでは、という懸念が市場で深まっている

 貿易協定からの離脱と再交渉に加えて、政府は貿易相手国に対し、補助金の需給やアメリカ市場への製品のダンピングに対する制裁措置を講じるため、一方的な取り組みを強化した

 貿易に関する制裁を実施するという決断には、反動のリスクが伴う。カナダのボンバルディア航空に制裁を科した一件では、ボーイング社にとって最大の競合外国企業であるエアバス社の傘下に入るという結末を迎えている。ソーラーパネルの輸入に対する脅迫的な制裁措置も同様に、アメリカのパネル設置企業を傷つけ、外国の報復を促進するという効果をもたらす可能性がある。

◆貿易にはチャンピオンが必要
 トランプ大統領は、アメリカが一方的に行動しても、影響がないことを前提としている。

 経済の歴史を見れば、そうはいかないことがわかる。世界経済は世界恐慌の時期と比べ、はるかに相互依存を強めており、トランプ大統領が世界各国のリーダーに期待しているというように、各国が「自国ファースト」の貿易政策に続くことになれば、その影響によって悲惨な結果がもたらされる可能性がある。

 アメリカの力で構築された自由市場と、古典的な自由主義の原則に基づく国際貿易システムが、未だかつてない脅威にさらされている。しかし、トランプ大統領による「アメリカファースト」のアプローチは、それを保護するというアメリカの伝統的な役割を全面的に放棄するものだ。そして実際、大統領はそのシステム弱体化のために尽力している。

 要するに、トランプ政権はアメリカ経済および国際システムにとって危険な政策に立ち返っているのだ。

 もしアメリカがその権力を放棄するとなると、それを手にできる唯一の国は中国なのかもしれない。問題は、それが現在のシステムや自由市場にどんな意味を持つのか、ということだ。

This article was originally published on The Conversation. Read the original article.
Translated by isshi via Conyac

The Conversation

Text by The Conversation

Recommends