英高速鉄道「HS2」、問題山積も継続 コスト上昇、環境への懸念

セント・パンクラス駅に停まるイギリス鉄道395形電車|photocritical / Shutterstock.com

◆遅れる開業 コスト上昇も収益予想できず
 夢の高速鉄道だが、問題は山積みだ。もともとフェーズ1は2026年、フェーズ2は2032~33年開業を目指していたが、大幅に遅れている。フェーズ1のコストやスケジュール見直しで時間がかかったこと、政府が計画続行の是非を検討したことなどもあり、現在ではフェーズ1のフル開業が2031~36年、フェーズ2に至っては2036~40年と推定されている(スカイニュース)。

 さらにコストもどんどん膨れ上がっている。2010年に200億ポンド(約2兆9700円)だった総工費は、最新の運輸省の見積もりで650~880億ポンド(約9.6~13.1兆円)に増加している。トンネル、橋、駅の建設費用が当初より増加。また、土地接収費用に加え、アスベスト、遺跡が発見されたり、ガス配管や電気配線の移動が必要になったりと、思わぬ追加コストが発生している。政府委嘱の独立調査会の元副会長、バークレー卿は、1070億ポンド(約15.9兆円)にまで最終コストが膨張すると見ている(同上)。

 収益に対する疑問符もついている。政府は鉄道利用客が増え続ける計算でプロジェクトを正当化してきたが、コロナ禍で人々の移動のパターンは変化し、リモートワークも増えた。政府は今後の利用者増加の見通しがつかないことを認めており、以前のレベルに利用者が戻るかどうかは不明だ。高速鉄道に反対する人のなかには、同じ費用で既存の鉄道を改良すべきだという声もある。

◆環境への懸念 温暖化対策の足を引っ張る?
 鉄道建設による環境破壊への抗議も出ている。環境活動家がロンドンのHS2の建設エリアにキャンプを張ったり、トンネルを掘って立てこもったりしており、一部で強制退去させられるという事件も起きている。

 既存の鉄道より効率的かつクリーンなイメージのHS2だが、温暖化への影響も議論されている。リーズ大学のトニー・メイ名誉教授は、HS2の低炭素列車による二酸化炭素削減で、工事の際に出る二酸化炭素を相殺するには65年もかかってしまうと指摘する。よって、イギリスのゼロエミッション達成の期限である2050年までには、HS2は炭素排出において負担にはなっても削減にはまったく貢献しないとしている(BBC)。

 建設には賛否が大きく分かれ、建設工事にはこの先も困難が続きそうだ。日立製作所が、カナダのボンバルディアと組んでHS2の車両受注を狙っていることもあり、日本としても今後の展開が注目される。

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Text by 山川 真智子