インド新幹線計画に逆風 主要州の新首相、計画見直しを発表

出典:首相官邸ホームページ

◆住民は抵抗、用地買収進まず
 タークレー氏が党首を務めるシヴ・セーナー党は、先の選挙で反新幹線を訴えて票を伸ばしたため、計画を見直すと発言せざるを得なかったとニュー・インディアン・エクスプレス紙(NIE)は見ている。中止を前提に見直すということではなさそうだ。しかし以前から高速鉄道見直しを主張してきたNIEは、計画には問題点が多くあると指摘する。

 まずマハーラーシュトラ州では用地買収が難航している。必要とされる1340ヘクタールの用地のうち、取得できたのは705ヘクタールだ。とくに沿岸部の住人の抵抗は激しく、十分な立退料を提示しても安定した収入源である農地を失うことを恐れ、抗議が続いているという。

 ロイターによれば、インドでは用地買収に対する抵抗はよくあることで、サウジアラムコなどの企業連合が運営するマハーラーシュトラ州での石油精製所の用地買収も、かなり難航しているということだ。

◆コストに見合うのか? 必要性に疑問符
 高速鉄道が本当に必要なのかという根本的な問題もある。ムンバイ-アーメダバード間の高速鉄道運賃は4000~5000ルピー(約6100円~7700円)と設定されており、1日あたり10万人が利用すれば元が取れることになるとNIEは説明する。しかし、航空運賃のほうが安く、補助金を入れたとしても、ほとんどお金持ちの乗り物と化すのではないかとしている。さらに他国の例を見ても、採算が取れないこともしばしばだと指摘。日本の新幹線に、年間1.5億人、1日40万人ほどの利用があるのは、東京-大阪間という人口のほぼ50%が集中している場所に作られているからだとしている。

 結局、アルゼンチンなどは高速鉄道をあきらめ、既存の鉄道網を中速にアップグレードすることを選んだ。途上国で唯一成功しているのは中国だが、莫大な補助金が投入されており、その負債は3000億ドル(約33兆円)に膨らんでいる。インドがそのようなオプションを選べるわけはないとNIEは主張。新幹線ではなく、普通の高速鉄道を採用すれば建設コストも大幅に減り、古い既存の鉄道網に手を加えるならさらに割安だとしている。

 NIEによると、ムンバイには400万人のスラム居住者がおり、80万世帯が屋根のない場所で生活している。見栄えのために新幹線に大金を使うなら、スラムの400万人のための住宅に投資するほうが先ではないかと同紙は訴えている。

◆投資家心理に影響 安易な中止は危険
 シンガポールのストレーツ・タイムズ紙(ST)によれば、シンガポールの企業連合が受注したアーンドラ・プラデーシュ州の新州都建設計画が最近キャンセルされた。大型プロジェクト見直しやキャンセルは、経済の成長が鈍化しているいま、インドにとってマイナスに働くと同紙は述べる。

 投資銀行、Cogence Advisorsのリシ・サハイ氏は、州政府が前政権の行っていたプロジェクトをやめてしまえば、海外投資家からの信頼が低下し、本当に必要な部門への投資に影響が出ると述べる。ジャワハルラール・ネルー大学のBiswajit Dhar教授は、インドの改革の特質は政策にほぼ一貫性があったことだが、いまではそのように言えなくなったと述べる。政策撤回する州政府は、大きな絵を見ることができないとし、経済への影響を心配している。

Text by 山川 真智子