中国揺るがす「豚肉危機」、欧州に影響 米中貿易協議の進展にも 豚コレラ

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◆欧州にも影響 輸出は増えても生産が増えない
 豚肉の不足を中国は海外からの輸入に頼っており、欧州からも大量に輸入している。ところがアフリカ豚コレラは東欧でも感染が広がっており、欧州の養豚農家は、感染を恐れて豚肉の増産には慎重だという。供給量が増えないところに中国への輸出が拡大したため、欧州でも豚肉価格が高騰している(フィナンシャル・タイムズ紙(FT))。

 通常、欧州の中国向け豚肉輸出のピークは旧正月前の年末だが、今後はそれ以降も需要が伸び続けるかもしれないと見られている。しかし、イギリスの農業園芸開発公社のベッサン・ウィルキンス氏は、ドイツやオランダなどは環境や家畜に対する規制が厳格化していること、また自国での豚肉需要が横ばいにあることから、増産に消極的だとしている。さらに、米中貿易協議が進展すれば、中国がアメリカからの豚肉輸入に回帰する可能性もあり、これも欧州の生産者が増産に踏み切れない理由だとしている。中国の豚肉不足が、欧州の需給バランスにまで影響を及ぼし始めているなか、欧州の主要生産国にアフリカ豚コレラが広がることでもあれば、欧州の豚肉市場は大変なことになるとウィルキンス氏は述べている(FT)。

◆豚肉不足で暴動も? 供給は統治に直結
 さて、欧州が危惧した通り、米中貿易協議に進展が見られた。両国は10月11日に、アメリカが追加関税発動を見送る代わりに、中国が400億〜500億ドル(約4.3兆〜5.4兆円)規模の豚肉を含む米農産品の大規模輸入を行うことで合意したと発表した。これがポジティブに受け止められ、株価も上昇しトランプ大統領もご満悦だった。しかしディプロマット誌は、そもそも中国の米産豚肉の輸入量は今年1月から8月までの間に3倍になっていると指摘。中国はただ単に豚肉が欲しかったところに、今回の合意でアメリカに好意的に受け止められてラッキーだとしている。

 コモディティ・エコノミストのアーラン・スダーマン氏は、中国が貿易協定に動く主な理由は、豚肉不足によって社会不安が引き起こされる可能性を危惧しているからだと断じる。中国政府はあらゆる手段を使っているが、十分な豚肉を確保することはできておらず、豚肉価格が上昇すれば、牛肉や鶏肉の価格も上昇する。今後肉を食べられない人も出てくるとし、この状況を政府は避けたがっていると指摘している(業界誌、Farm Journal’s Pork)。

 ディプロマット誌は、中国では豚肉はさまざまな料理に使われ、繁栄の象徴とされており、日々の生活における豚肉の重要性を軽んじてはならないとする。国民の生活水準を上げることは中国共産党の任務であり、豚肉の安定供給もそれに含まれるということで、豚肉不足は政府への信頼を揺るがしかねない大問題となっているようだ。

Text by 山川 真智子