移民による経済効果を得るのは? 競い合う国際社会

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◆移民の獲得競争に破れる米国
 世界で最も強力で、かつ最大の経済大国でもある米国は、最近まで移民の国として知られていた。

 2017年にトランプ政権が誕生してからは、移民や難民を国内から排除するための数々の手段が講じられた。メキシコとの国境に壁を建設したり、難民の受け入れを制限したり、米国移民局の公式綱領から「移民の国家」という語句を削除したりしてきた。しかし、こうした変化はトランプとともに始まったわけではない。これらは9.11のテロ以後、本格的に始まっていた。

 移民とテクノロジーの研究者であるヴィヴェック・ワファは、移民に対して障壁を設けることは、米国の革新的、技術的、そして経済的優位性を損ねると何年も警告し続けてきた。結局のところ、米国の事業の多くは移民によって始められたのであり、米国内で10億米ドル以上の規模をもつスタートアップ企業のうち半数以上が、少なくとも1人の移民の共同創設者を擁している。

 STEM(科学・技術・工学・数学)分野で学士以上の学位を取得するため米国に入国した卒業生に関するワファの研究は、憂慮すべき変化を示す。2001年以前は、そうした学生の大半は卒業後も米国にとどまっていた。2001年以降は、移民局の厳しい移民政策により「否応なく」Uターン移民としてインドや中国などの母国に帰るようになった。

 米国は、増加するSTEM教育を受けた学生の帰国に対処するために、政策の変更を余儀なくされた。

 その間インドや中国は、留学生を母国に呼び戻すことの価値に気づき、世界中からそうした人材を集めている。彼らをよりたくさん招き入れるため、インドや中国は新しい政策をいくつか打ち出した。

 例えば、中国は最近ビザに関する政策を変更し、「海外在住の中国人」に対して5年間有効の複数回入国可能なビザを発行するようにした。能力の高い移民を中国に招き寄せるため、他にも数多くの取り組みが行われれた。

 中国のグーグルともよく言われるインターネット企業バイドゥの創業者であり、億万長者の起業家李彦宏(り げんこう)は、米国が失った分だけ中国の利益になりうると指摘している一人だ。彼はこう語る

 中国が立ち上がり、「ぜひ中国に来てください、私達は移民を歓迎します」と表明するに良い時機だ。

 中国と米国はどちらが21世紀の世界を技術的に支配するかで競い合っており、移民の受け入れがその勝敗の鍵を握っている。

 しかしながら、経済に付加価値を与えるのは技術者の移民達だけではない。様々に異なるスキルを持った働き手が不可欠だ。例えば、米国の農業は外国の労働者に大部分を依存している。また、工業化が進んだ日本は高齢化に悩んでおり、生き残りのためにはより多くの若い外国人労働者を招き入れることが必要となるだろう。

Text by The Conversation