葛飾北斎の古今東西への影響を見る…米ボストン美術館で展覧会
現在アメリカのボストン美術館(MFA)で開催中の「北斎:インスピレーションと影響」展に、『北斎と応為』(彩流社)著者のカナダ人作家、キャサリン・ゴヴィエ(Katherine Govier)氏と行ってきた。氏は北斎の娘、葛飾応為の活躍を早くから指摘してきた人物だ。2017年にも一緒に大英博物館の北斎展を訪れたのだが、当時メトロポリタン美術館(ニューヨーク)の日本美術キュレーターであったジョン・カーペンター博士が基調講演の最中に壇上から氏に向かって「過去5年間で応為に注目が集まるようになったのはあなたのおかげですよ、キャサリン」と語りかけた場面が忘れられない。
今回のボストン美術館の北斎展は、そのタイトルからも予想できるように、北斎自身よりも彼の与えた影響がテーマとなっている。北斎をして「美人画ではかなわない」と言わしめた娘の応為だが、現存する落款入りの作品はたった十数点と極端に少ない。ゴヴィエ氏をはじめ、北斎最晩年の作品のいくつかは応為によるものではないかと考える学者や研究者、芸術家が増えてきているが、今回、もしかしたら新たに応為の作品を見ることができるのではないかと、期待に胸を膨らませてボストンに向かった。
◆「北斎作」から「作者不詳」に
展示は大きく二部に分かれていた。まず、北斎とその門下生たちの作品。次に、『冨嶽三十六景』の「神奈川沖浪裏」いわゆる「ビッグ・ウェーブ」と、それに影響を受けた古今東西のアーティストたちの作品だ。応為作と記載のあるのは残念ながら『三曲合奏図』のみだったが、それでもこうして見比べてみることで、あまたの門下生の中で応為の実力がどれほど抜きん出ていたかがよくわかる。さらに、これまでは北斎作とされてきた『月下のうぶめ図』が作者不詳に変更されていた。想定作年が北斎死後とされたためだが、女性がモチーフである点、空疎な背景、右上がりの構図など、応為の作品の特徴と言われる要素が多々ある。
「大波」の方は海外の芸術家およびポップアートが中心だ。ニューヨーク・タイムズが指摘するように、こちらの方は雑多な印象は否めず、「これら見たままの波や隆起ではなく私が本当に望んでいたものは、ジャポニスムを特徴づけ(中略)アジアと西洋の交流を照らし出す象徴主義だった」という印象にも頷ける。ただ、ジャポニスムがモネ、ゴーギャン、ゴッホなど、ヨーロッパの偉大な芸術家に与えた決定的影響を、知識としてはわかっていても、それを実際に見比べる機会がなかった者としては、今回のキュレーションは非常に興味深いものだった。たとえば、モネの『睡蓮』と北斎の『李白観瀑図』を横並びで見比べられる。
確かに、レゴの大波は「ギフトショップに留まるべき」(ニューヨーク・タイムズ)かもしれない。フィギュアスケーターの羽生結弦選手のポートレートや『鬼滅の刃』のポスターも然り。ただ、奈良美智作品のようなスピンオフはアリなのではないか。そもそも、浮世絵は庶民の娯楽として昇華したものだ。ウォーホルやリキテンスタイン、草間彌生の作品もある。
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