イギリスの「国民食」となったカレー 英発祥のチキンカレーが一番人気

チキン・ティッカ・マサラ|nelea33 / Shutterstock.com

◆植民地時代に普及 カレー粉が人気に
 「カレー」という言葉は、ご飯にかける薄い肉汁を意味するタミル語の「Kari」に由来すると言われる。歴史家によれば、イギリスのカレーは18世紀にイギリス人将校とそのインド人コックにより初めて作られた。やがて急速にイギリス人の間に広まり、インド商人が粉末のガラムマサラを帰国するイギリス人将校の持ち帰り用に製造するようになった。この自家製カレー粉をイギリス人がほかの植民地にも売るようになり、これによってカレー粉を使った新しい料理の人気に拍車がかかったという。(スラープ)

 しかし、戦後になるとカレーの人気は低下した。使用人がいなくなったことで台所が地下から地上に移り、カレー料理の匂いが「かなり臭い」と嫌がられるようになったからだという(CSM)。ノーザンブリア大学のエドワード・アンダーソン氏によれば、インド料理は歴史的に不健康、不衛生、臭いという悪評があり、インド料理店での客の横柄な態度も、植民地の過去や人種差別と関連するものだったということだ(トルコのニュースメディアTRTワールド)。

◆ポスト植民地時代の食文化 移民の貢献が大
 イギリスはエリザベス2世の70年にわたる治世のもと、帝国からポスト植民地主義へと移行し、新しい食の吸収と社会の変化が起こった。この時代の重要な変化の一つがカレーだとCSMは説明する。

 新時代にカレーを表舞台に押し上げたのは、実はパキスタンやバングラデシュからの移民だ。彼らが自分たちの料理をイギリス人向けに改良し、イギリス人にわかりやすいようにインド料理として広めたのだという。1980年代にはインド料理店が急増し、人気料理としての地位を確立した。(TRTワールド)

 イギリスで最も人気の高いカレーはチキン・ティッカ・マサラだ。イギリスの大手スーパー、セインズベリーズでは年間約160万食が販売され、調理済み食品としては最も売れているという。(食の情報誌テイスティング・テーブル

 チキン・ティッカ・マサラは、ロビン・クック元外相が在任中に国民食と呼んで話題になった。クック元外相はインド料理のチキン・ティッカ(骨なしタンドリーチキン)にグレービー好きのイギリス人に合わせてソースを加えたものがチキン・ティッカ・マサラと説明したが、起源については諸説ある。おそらくパンジャブ地方、特にパキスタン出身の移民によってアレンジされたものだと見られている。(同)

 近年は、イギリス的ではない本格的な南インド各地のレストランが続々と出店。インド各地の料理に影響を受けた実験的なレストランも誕生し、新しい世代のイギリス人に人気だという。このブームの背景には、植民地支配後の歴史に関する教育が進んだこと、海外旅行をするイギリス人が増えて本物のインド料理とイギリスのカレーとの違いを理解するようになったことがあるとCSMは解説している。

Text by 山川 真智子