王国の女性戦士軍、奴隷めぐる部族間抗争……西アフリカの歴史に光を当てる映画『ウーマンキング』

左からプロデューサーのキャシー・シュルマン、キャストのトゥソ・ムベドゥ、ヴィオラ・デイヴィス、
監督のジーナ・プリンス・バイスウッド(9月8日)|Chris Pizzello / AP Photo

◆いままで語られることがなかったストーリー
 『ウーマンキング』は、奴隷貿易の複雑な歴史を伝えるとともに、アゴジェの凄まじい強さを見せつけるアクション映画だ。奴隷貿易、部族間の争い、植民地化への流れに関して、いままであまり語られてこなかった物語や人物たちが生き生きと描かれている。

 ダホメ王国はヨーロッパの奴隷貿易に関与することで財を成した。ほかの部族との戦いで捕虜を確保し、奴隷としてヨーロッパに売り渡した。映画の中では、アゴジェの将官ナニスカが、国王に対して奴隷貿易をやめて、パーム油の輸出に切り替えるべきだと提言するシーンがある。この提言自体は、歴史的に記録はされていないが、パーム油の経済性についての検討やテストは実際に行われたようだ。ダホメ王国は結局のところ奴隷貿易を続けることになったが、オルタナティブな選択肢が検討されていたということ自体、興味深い事実であると言える。

 映画の中では、アゴジェの恐れ知らずの戦い方や、文字通り荊の上を駆け抜けるといった(実際に行われていた)厳しい訓練の様子が描かれている。同時に、アゴジェが軍隊として組織化され、さまざまな戦略や戦術で敵を倒していった姿が伝えられている。また、ベナン出身のプリンストン大学の経済学者で、アゴジェの末裔に関する研究を進めるレオナルド・ワチェコン(Leonard Wantchekon)教授は、欧州に植民地化される前のダホメ王国の社会ではアゴジェの存在に象徴されるように、ジェンダー平等の社会であったと語る。組織化された軍隊やジェンダー平等の社会の存在は、欧米目線から語られる奴隷貿易や植民地政策の物語において、語られてこなかった要素だ。

 『ウーマンキング』の物語は大きくドラマ化されたフィクションではある。しかし、植民地以前の西アフリカのダホメ王国とヨーロッパの貿易取引相手としての関係性やダホメ王国の社会や文化を垣間見ることができる、肌色の濃い黒人女性たちが主役となった、いままでにないハリウッド作品という意味で、大きな存在意義を持つ映画だ。

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Text by MAKI NAKATA