英国の歴史ある詩コンペで、香港出身19歳が最年少優勝 英語の植民地性を探求

Christophe Cappelli / Shutterstock.com

◆エリック・イップの詩とは
 優勝したイップは「あまりに衝撃的なことだった」とガーディアンにコメントを寄せている。詩は年齢を重ねるごとに上達する芸術のひとつであることは間違いないとした上で、今回の受賞はスタートであり、今後さらに上達するための励みだと考えていると付け加えた。

 優勝作品の詩のタイトルは『Fricatives』。これは言語学用語の単語で、fやthなどの摩擦音を意味する。「free」や「three」などの単語における子音が一例だ。『Fricatives』は「言語、人種、移住といった、濁った危険な水を進むという体験、そして「誰も聞きたくないような香港訛りのメガネっ子の言うこと」を聞き入れてもらうという体験を表現したものであると、詩学会のウェブサイトでは説明されている。

 詩のなかで、イップは英語という言語が持つ植民地的な性質について探求している。詩は彼の出身地である、元英国植民地である香港という街における、植民地主義の遺産を象徴するものでもある。さらに、英国のケンブリッジ大学で教育を受けることができているイップ自身の特権と罪悪感を表現するものでもある。彼は英語を話し、英語を話す国への同化のプロセスを歩む一方で、母国語や自国のカルチャーとのつながりを保とうとする。一方で、両親は英国で教育を受ける彼を誇りに思い、英国人の英語のアクセントを「ちゃんとしたもの」であると評価する。イップは特権や罪悪感を感じつつも前進する。

 イップの詩は個人的なものでありつつ、普遍的な政治性を持つものでもある。この詩は、英語が公用語として使われている(欧米の)国において、英語を学ぶ者(非白人)が直面する、人種差別的経験、植民地主義的なパラダイムとの対峙、性交渉における力関係などといった、さまざまな困難や葛藤を、詩という芸術的表現において直接的および間接的に表現したものである。詩は「ちゃんとした正しい英語を話すには(To speak English properly)」という表現に始まり、「スプーンを使って、出されたご飯を口に入れる。この完璧なご飯を。蒸されていて、完璧で、白い。(You spoon / served rice into your mouth, this perfect rice. /Steamed, perfect, white.)」という表現で締めくくられている。

 イップの詩の全文は、詩学会のウェブサイトに掲載されている。

【関連記事】
米大統領就任式で存在感、22歳詩人アマンダ・ゴーマンの戦略と夢
アフリカ初のプリツカー受賞者フランシス・ケレ、軌跡とビジョン
TikTokで人気爆発、フォロワー世界2位のカビー・ラメとは?

Text by MAKI NAKATA