9人の黒人モデルの英ヴォーグ表紙、なぜ波紋を呼んだのか?

表紙に起用されたモデルの一人のアドゥット・アケチ|Ovidiu Hrubaru / Shutterstock.com

◆波紋を呼んだ表紙写真
 ラゴスを拠点にCNNのスーパーヴァイジング・エディターとして活躍するナイジェリア人ジャーナリストのステファニー・ブサリ(Stephanie Busari)は「モデルたちの写真を見て、気持ちがへこんだ。好きだと言いたいという気持ちがある反面、表紙の写真に困惑し、重要な意味合いを持つこの表紙の完成度に関しては疑問を感じざるを得なかった」との感想を表明している。具体的には、不自然に黒い肌色やウィッグ、全員が黒づくめで葬式のような雰囲気だと批判している。彼女だけでなく、彼女の友人やツイッターコミュニティーも、複雑な反応を見せたとしている。美しいというような第一印象があり、写真を好きだと言いたい(黒人のリプレゼンテーションを祝いたい)という気持ちがある一方で、作り込まれた黒人モデルの美は、おなじみの「他者の視線(gaze)」、フェティッシュな要素であり、そこにはこれまで続いてきた(白人視点の)美の基準に根付いた負の遺産が拭いきれないものとして存在しているというジレンマがあるようだ。

 また、アフリカ視点のメディア『Africa is a Country』の創業メンバーの一人でもあるM・ニーリカ・ジャヤワルダネ(M Neelika Jayawardane)らが執筆したアルジャージーラのオピニオン記事でも、黒人モデル称賛の試みは失敗に終わったとしている。表紙写真は、アフリカ人をモノ扱いしているようで、欧州植民地主義的な、偏愛・妄想的なものの再生産であるとした。また、9人のモデル全員が集合している表紙写真については、黒の背景、肌の色がそれぞれ異なる黒人モデルの配置などから、それぞれの個性がかき消されたようなものになっているとした。

 今回の表紙の完成度は批判を呼び起こし、ある意味「失敗」したともいえるが、黒人モデルの採用は一過性のトレンドというわけではなさそうだ。以前はゲートキーパーによってその見えない存在だったアフリカ人モデルだが、いまは、インスタグラムなどのSNSによってキャスティング担当とモデルは直接的にやり取りできる時代だ。また、ジョージ・フロイドの殺害をきっかけに巻き起こった人種の多様性やインクルーシビティを尊重する動きを受けて、業界全体も変わりつつある(ヴォーグ(コントリビューティング・エディターのフェットによる記事))。

 今回の出来事は、とくに視覚的な要素が重要であるファッション業界における、多様性・リプレゼンテーションの実現の難しさが改めて浮き彫りになったものだ。同時に、歴史的・構造的に虐げられてきた黒人、アフリカは、いまだ脆弱な状況にあり、リプレゼンテーションの実現をさらに難しいものにしている。その難しさは、CNNのブサリなどが感じたジレンマに現れているようだ。

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Text by MAKI NAKATA