ディオールのアフリカ開催のショー、なぜ論争を巻き起こしたのか?

Alexander Sarlay / Wikimedia Commons

 モロッコのマラケシュにて4月29日、ディオール2020クルーズコレクションのショーが開催された。ディオールのウィメンズを担当するアーティスティック・ディレクター、マリア・グラツィア・キウリが仕掛けたコレクション。同社の発表によると「ディオールの装いとアフリカンファッションとの対話」を表現したものだとういう。

 筆者はファッションの専門家ではないが、NYやパリのファッションショーや関連イベントに何度か参加したことがあり、アートフェアでマラケシュを訪問したこともある。ファッションショーもマラケシュも、魅惑的で美しい場だ。マラケシュ旧市街のエルバディ宮殿の敷地の屋外を舞台に、炎とキャンドルの灯りに包まれた会場でのファッションショーは、動画で見る以上に幻想的で美しく、現場での参加者を魅了したに違いない。

 しかし、このコレクションの発表後には、意図された対話(conversation)を超えて、論争(controversy)が起こっていた。論争の議題は、このコレクションはグローバルブランドが犯してしまった、また新たな「文化盗用(cultural appropriation)」なのではないかという点だ。

◆アフリカンワックスという厄介な遺産
 コレクションの象徴として採用されたのが「アフリカンワックス」。ディオールの日本語サイトによると、「コートジボワールにあるUniwaxの工場とスタジオとのコラボレーションを実現し、ディオールコードを生地の緯糸に織り込み再解釈したスペシャル エディションをデザインしました」とある。

 アフリカンワックスは、アンカラ(Ankara)やダッチワックスなどの別称があるが、さまざまな色柄を蝋染めで表現した布地のこと。19世紀、交易ルートを拡大していたオランダが、インドネシアでハンドメイドの蝋染めの布、バティックを「見つけ」、自国の工場で模倣したものを輸出しようとしたがインドネシア市場では失敗。新たな輸出市場として開拓されたのが西アフリカだった。その布がアフリカンワックスとして広まり、現在では西アフリカだけでなく東アフリカにおいて、アフリカ大陸以外のアフリカ系の間でも大衆的な人気がある布だ。

 現在も、オランダに拠点をもつフリスコグループ(Vlisco Group)が、アフリカンワックスのマーケットリーダー。同社は2010年にイギリスのPEファンドActisが買収している。グループ傘下には、西アフリカ拠点のWoodin、GTP、Uniwaxがある。Uniwaxは今回ディオールが布地を生産したコートジボワールの会社だ。

 アフリカンワックスは一般的にローカルなものとしてアフリカ市場に受け入れられている。たとえば、ナイジェリア・ファッション・ウィークを手がけるラゴス在住のオモイェミ・アケレレは、アフリカンワックスの歴史的背景を理解しつつもその存在に対しては好意的で、その存在はローカル経済に寄与していると語る。近年は、フリスコの柄を模倣した安価な中国産アフリカンワックスも流通している。

 しかし前述の歴史的背景などから、アフリカ系のクリエイターやエリート層にとって、アフリカンワックスは扱いにくい存在だ。アフリカンワックスの存在そのものが植民地主義の遺産であり、アフリカにおいては、その布地を使用することに強い抵抗を示すファッションデザイナーも少なくない。

 たとえばケニアのファッションデザイナー、アニャンゴ・ムピンガ(Anyango Mpinga)やカトゥングル・ムウェンドゥワ(Katungulu Mwendwa)などは、自身のルーツや文化解釈に基づいて、独自開発の生地を用いたコレクションを展開する。これらの生地は、ステレオタイプ的なアフリカの布とは対照的で、必ずしも色鮮やかで派手ではなく、動物柄なども見当たらない。

 過去にもバーバリーやケンゾーなどのブランドが、アフリカンワックスを使用したコレクションを発表し、物議を醸した。今回ディオールのキウリは、コートジボワールの工場やアフリカ系デザイナーとのコラボレーションのストーリーを展開したことで、ある程度の非難回避に成功していたようだ。しかし、わかりやすい象徴であるアフリカンワックスがまたもやアフリカの布・ファッションとして再構築・再発信されたことに対しては、反発と批判の声があった。

 たとえば、アフリカ系のファッション・ライフスタイルのキュレーションとグローバルな市場開拓を行うLuxury Connect Africaの代表ウチェ・ペザール(Uche Pézard)は、強く反発の声を上げた一人だ。多様なアフリカ発のクリエイティビティやブランドの発掘・展開を手がける彼女が、「アフリカンファッション」が旧宗主国フランスによって、植民地主義の遺産の象徴であるアフリカンワックスによって再び定義されてしまったことに対して反発するのは当然かもしれない。

Text by MAKI NAKATA