辛口評論家フラン・レボウィッツが、いま注目される理由

Ovidiu Hrubaru / Shutterstock.com

 辛口の社会批評・評論で知られるニューヨーカー、フラン・レボウィッツ(Fran Lebowitz)が、マーティン・スコセッシ(Martin Scorsese)監督のNetflixドキュメンタリー『都市を歩くように -フラン・レボウィッツの視点-(原題:Pretend It’s a City)』のリリースによって、いま改めて注目を集めている。1970-90年代にライターとして注目を集め、その後は講演活動を中心に活躍してきた彼女は現在70歳だが、ミレニアル世代にも人気があるという。携帯も持たずインターネットも使わない彼女が持つ、いまの時代が求める視点とは。

◆『Pretend It’s a City』とは
 ドキュメンタリーシリーズ『都市を歩くように -フラン・レボウィッツの視点-』は、今年1月にNetflixでリリース。各約30分、全7回という構成の本ドキュメンタリーは、スコセッシによるレボウィッツへのインタビューを中心に、彼女の視点を通じて見た「ニューヨーク」を紐解く作品だ。パンデミック前に撮影された映像には、ニューヨーク公共図書館や会員制の社交クラブ『The Players』など、象徴的な文化施設を舞台にしたシーンや、レボウィッツがニューヨークの街中を歩くシーンが登場。さらに、彼女の過去の講演シーン、アレック・ボールドウィン(Alec Baldwin)、スパイク・リー(Spike Lee)、トニ・モリスン(Toni Morrison)らとの対談映像が組み合わせられ、レボウィッツのさまざまな言葉のコラージュによって、彼女の視点、価値観、ニューヨーク像が解き明かされる。レボウィッツを扱ったスコセッシ監督のドキュメンタリーは、2010年の「パブリックスピーキング(Public Speaking)」に続き2作目となる。スコセッシは、彼女のユーモア溢れる魅力を引き出しているというよりは、彼自身が素直にレボウィッツの意見を大いに楽しんでいるようだ。

 原題の『Pretend It’s a City』は、レボウィッツが放つニューヨークの街中の観光客に対する注意のセリフだ。邦題には『都市を歩くように』という緩やかな雰囲気があるが、原題には「都会なんだから、邪魔にならないようにちゃんと歩いて!」といったニュアンスがある。15年前に初めて口にした言葉だと彼女はいう。ニューヨークの道はいつでも人でいっぱいだったが、それまでは人々は道を行き交う際、暗黙の了解で他人をよけて、譲り合って歩いていた。しかし15年前ぐらいから、彼らは道を譲らなくなった。目的なく歩く観光客が増えた。そして携帯の普及が道歩きのマナーを悪化させた。その苛立ちが「Pretend it’s a city」という言葉に込められている(米ニューヨーク・タイムズ)。

 ニューヨークやニューヨークの人々に対しての辛口コメントを連発するレボウィッツだが、否定的なコメントの背後には、ニューヨークに対する愛が込められている。都市と人々に注意を払って、気にかけているからこそ、批判的な視点が生まれる。多くのことに対して、自分の意見を持ち、意見を表明する彼女。一方で、自分には物事を変える権力はないと言い切る。自分が権力や権威を持っていない立場にあるからこそ、自分のことを批判する人々のことが理解できないという。レボウィッツは、はっきりと意見を表明するが、彼女に傲慢さはなく、むしろ謙虚な態度も見て取れる。

Text by MAKI NAKATA