チーム新海の“綿密さ”に脱帽……英米公開の『天気の子』、現地メディアの反応

(C)2019「天気の子」製作委員会

♦︎雨粒の一滴さえ美しく
 本作を「明快で美しい映画作品」と述べるのは、米ロサンゼルス・タイムズ紙(1月15日)だ。新海監督率いるアーティストたちは「マイクロ」と「マクロ」の両方の観察眼を兼ね備えている、と評価している。プリズムのように輝く雨のしずくから、雲間から洩れた光に照らされる新宿の引きの画まで、さまざまなスケールで美とリアリティを感じさせてくれる。こうした美しさを同紙は、陽菜と帆高が置かれる厳しい状況と対比し、一層引き立てるものだと分析している。また、新海監督の前作『君の名は。』と同様、「もし観客が探しさえすれば、魔法は日常世界に潜んでいるのだ」という監督のメッセージが感じられるという。

(C)2019「天気の子」製作委員会

 米ニューヨーク・タイムズ紙(1月16日、以下NYT)は「ときおり日光の束が暗がりを突き抜け、都会の小さな一角を照らし出す」と述べ、光線の扱いの巧さを評価している。物語冒頭で雲間からもれる光を追って陽菜がビルの上の鳥居にたどり着くシーンは、この代表例と言えるだろう。また、新海監督の持ち味でもある素早いカットワークが気づきにくくしているが、たとえ一瞬しかスクリーンに映らないショットも細部まで美術に抜かりがない。何気ないゴミ袋の質感やビール缶の意匠まで忠実に再現されている、と手の込んだ仕事に同紙は驚いている。

 入念な描写はイギリスでも好評のようで、英テレグラフ紙(1月16日)もファンの期待を裏切らない完成度を褒め称えている。「水たまりに降り注ぐ雨の短いショットでさえ、(担当した)アニメーターのアートを披露する機会なのではと捉えることができる」と述べ、わずかなショットにも心血が注がれていることを強調している。信じられないほど密度の高い画作りは、英米の各メディアが共通して高く評価しているポイントだ。

♦︎内容も充実
 アートの完成度だけでなく、メッセージ性を帯びたストーリーも注目されている。テレグラフ紙は前作『君の名は。』に共通する特徴として、強大な力を前になす術もなく振り回される若い男女の主人公、という構図を指摘している。「少年少女の不運が魅力的に感じられることはあまりないものだが、新海誠作品においてはまったくもって魅力的だ」と述べ、暗くなりがちなテーマをうまく処理している点を評価する。

 さらに同紙は、ここ数年で関心が高まりつつある環境問題を絡めた作品だと受け止めたようだ。作中で帆高と陽菜は、異常な長雨が続く陰うつとした東京の片隅で、徐々に社会から立場を追いやられ立ち尽くす。こうした筋書きから、与えられた状況がどんなに悪くともそのなかで精一杯生きるしかない、というメッセージを同紙は汲み取っている。環境問題を言外に扱いながらも、気候変動をテーマに活動する話題の少女・グレタさんとは対極のアプローチだ、と同紙は位置づけている。

 とはいえ終始重たい空気というわけではなく、エンターテイメント作品としても十分に成立しているので身構えずに観ることができる。とくに前半は展開も早く、「ストーリーはまるで流水のごとく進む」とNYT紙は紹介している。「新海(監督)は映像から映像へと矢継ぎ早につなぎ、キャラクターを登場させてはシーンから次のシーンへと飛び移る」と述べており、軽やかでテンポ感のある前半と深いメッセージ性を帯びた後半の双方が好評だ。

 作家性を前面に押し出していた新海監督は、『君の名は。』以降マスマーケットを意識し、バランス感覚を磨き上げたように思われる。従来から評判の高かったアートだけでなく、納得のストーリーを用意し芯に据えたことで、英米からの支持の獲得につながったようだ。

Text by 青葉やまと