「言葉を失うほど美しい」『天気の子』海外メディア批評 アジア、オセアニアで封切り

(C)2019「天気の子」製作委員会

 今年7月に公開された新海誠監督の最新作『天気の子』は、上映地を海外にも拡大し快進撃を続けている。国内で900万人を動員し興行収入もすでに120億円を突破した同作に、オーストラリアやマレーシアなど各国から絶賛が相次ぐ。同監督による2016年の大ヒット映画『君の名は。』に並ぶ新鮮なビジュアルと、心を揺さぶるストーリーテリングが好評だ。

◆東京の片隅で出会った、ひとりぼっちの二人
 いなか暮らしを抜け出したい高校生の帆高(ほだか)は、家出少年となり東京に駆け込む。怪しげな編集社に住み込みで雇われ、連日降りしきる雨のなかを取材に奔走していると、街角で少女・陽菜(ひな)と邂逅。母親を亡くしたばかりの孤独な彼女には、天気を操る不思議な能力があるという。チャンスと見た帆高は、陽菜と組んであるビジネスを始めるが……。

◆少年少女に迫る過酷な運命
 幻想的な本作を高く評価するのは、豪高級紙のジ・エイジだ。新鮮かつ満足感の高いストーリーだと述べ、内容の濃さを歓迎している。今回は前作『君の名は。』よりもコミカルな表情を多く導入し、エンターテイメント性の強化で魅力ある一本に仕上げた。さらに、要所要所のシーンで主人公たち一行に理不尽な困難が迫り、もの悲しい展開が感情をかき立てる。まさに英語版のタイトル通り、と同誌は納得している。英題『Weathering With You』は、「君と雨に打たれて」と「ともに苦難を乗り越えて」の二通りに解釈できるようになっている。

(C)2019「天気の子」製作委員会

 本作は幻想的なストーリーに少年少女のロマンスを交え、見応えのあるアニメーションで表現したハイレベルな作品だ。こうした要素は『君の名は。』の精神を継ぐものだ、とニュージーランドの『スタッフ』は述べている。同誌はさらに、作品のメッセージ性を深読みしている。災害がキーとなる前作は2011年の日本の震災を間接的に意図したものであり、今作は地球温暖化への警鐘なのでは、というのが同記事による解釈だ。なお、今回もRADWIMPSが楽曲を提供しているが、前作よりも前面に出ていない点を同誌は好感している。疾走感ある楽曲との絶妙なマッチが前作のポイントの一つだったが、J-POPに馴染みのない海外には残念ながらその価値が伝わりづらかったのかもしれない。

 ストーリーに話を戻すと、香港のサウスチャイナ・モーニングポスト紙は新海テイスト溢れる作品だと好感している。同紙は新海監督による2002年の短編作品『ほしのこえ』を例に引き、男女の恋が新海作品の重要なテーマになってきたと解説する。さらには長雨という今作のテーマも、2007年の『秒速5センチメートル』で主人公の行く手を阻んだ大雪と呼応するかのようだ。止まない雨は行くあてのない陽菜と帆高たちの象徴となり、観る者の心を締め付ける。ちなみに『君の名は。』では鮮烈な展開が印象的だったことから、今作でももう一歩攻めて欲しかったと同紙は惜しんでもいる。

 タイのバンコク・ポスト紙も同様に、物語にもう少し方向性が欲しかったと言及している。ストーリーが進むにつれ、陽菜の神秘的な力が話題の中心になってくる。神道に馴染みのない海外の観客には、このあたりの語り方が説明不足に感じられたようだ。日本人以外には伝わりづらいが、ジブリの『千と千尋の神隠し』を観た人ならばコンセプトを理解できるかも、と同紙は述べている。文化の違いが思わぬ不満を生んだことは残念だが、それも作品世界をより深く理解したいという興味の裏返しなのかもしれない。

Text by 青葉やまと