『ムーラン』女優の「香港警察支持」が波紋 目立つ芸能人の親中発言

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◆ディズニー困惑……期待作が政治的騒動の渦中に
『ムーラン』は1998年に公開されたディズニーの人気アニメ映画で、実写版は2020年に公開予定だ。ロサンゼルス・タイムズ紙(LAT)によれば、ディズニーはアニメ作品を次々と実写化して興行的成功を収めており、同作品にも大きな期待がかかっている。配役もアジア、とくに中国マーケットを意識して行われており、中国系有名俳優の名が並ぶ。リウも中国でもっとも稼げる女優の一人とされている。

 それだけに、この騒動への対処はディズニーにとっては難しい問題だとメディアは指摘する。LATは、すでに製作は昨年11月に終了しているため、いまからリウを降板させることはほぼ無理だと述べ、仮にできたとしても、共産党政府に目をつけられ、巨大中国市場を失うリスクもあるとする。さらに近年はホワイトウォッシュと呼ばれる、白人がアジア人役を務める傾向も改善され、『クレイジー・リッチ!』などのアジア系アメリカ人キャストで製作した映画が興行的に結果を出している。この時期に、アジア人キャストで、しかも主役がアジア人女性である『ムーラン』のボイコットを支持するのは諸刃の剣であるという認識をLATは示している。

 中国ではボイコットに対抗して多くの人々が『ムーラン』を見に来て、大ヒットになる可能性もある。その一方で、Deadlineは、香港、台湾はもちろんほかの市場への影響が心配されると指摘する。現在のところ、ディズニーから今回の件に関するコメントは出されていない。

◆本土でのキャリアにプラス? 目立つ芸能人の親中発言
 メディアはリウがデモに否定的な発言を行った理由は、中国政府ににらまれたくないからだと見ている。Deadlineによれば、リウはアメリカ国籍を取得しているが、女優、モデルを始めたのは中国だという。ハリウッド映画にも出演しているが、これまでの活躍のメインは中国だとタイム誌は指摘している。

 14億人の市場を抱える中国で芸能人が活躍するためには、中国政府に逆らうことはキャリアの終わりを意味するとLATは述べる。「一つの中国」を否定したり、香港の民主化運動を支持したりすることで干された芸能人は多い。また、女優のファン・ビンビンのように、脱税疑惑が発覚して政府に謝罪し、公の場から姿を消さざるを得なかった例もある。

 一方で、中国出身のKポップスター、レイなどは積極的に反香港デモ、親中をアピールしており、ほかのアジアの歌手たちも、「一つの中国」を支持するコメントを出している。香港出身のアクションスター、ジャッキー・チェンも、自らを「中国国旗の旗手」と呼び、民主的な人々から批判を浴びている(LAT)。

 タイム誌は、多くの中国人芸能人は、デモに関しては政府支持の声を上げるか、コメントを避けるかのどちらかだと述べている。南カリフォルニア大学の政治学者スタンレー・ローゼン教授は、『ムーラン』は抑圧に対して戦う物語だとし、リウの今回のコメントは、若者や彼らが愛する登場人物に対する侮辱に感じられると述べる。いま香港が直面している状況にムーランが置かれたなら、きっとデモ隊の側に付くだろうとDeadlineに述べ、リウは真逆の行動を取ったと述べている。

Text by 山川 真智子