二日酔いにならない新アルコール「アルカレール」 英国で開発中

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◆魔法のアルコール 作用の原理は?
 ナット教授がアルコールの代替品を開発したいと考えるようになったのは、実に37年も前のことだ。その後2004年になってアルカレールの開発プロジェクトが始動し、長年の夢がついに実現に向けて動き出す。以降15年以上を費やした研究により、ついにアルコールの長所だけを引き出す化学物質を特定することに成功した。そのメカニズムを解説している英テレグラフ紙によると、アルカレールはアミノ酸の一種であり抑制性の神経伝達物質として知られるGABAなど、脳内の特定の領域を刺激する。GABAは苦痛の軽減とリラックス効果の創出を担当しており、活発化によって酩酊感が生み出される。一方でアルカレールは二日酔いの作用を生じる脳の領域を刺激しないようにも考慮されているため、アルコールの長所だけを楽しめるというわけだ。

 ナット教授はこれまで、アルコールの危険性を声高に主張してきた人物だ。かつてはイギリス政府の薬物乱用諮問委員会のメンバーであったが、アルコールが薬物よりも有害であると率直に主張したことで、解任の憂き目に遭ってしまった。精神科医としても活動しており、患者と接するうちに、いかにアルコールが人生を狂わせるかを痛感している。しかしガーディアン紙が「禁酒法の支持者というわけではない」と述べるとおり、アルコールとは不思議な距離感を保って付き合ってきた。ナット教授自身、ベッドに就く前にはシングルモルトのウイスキーを少量たしなむという。また、知人と共同でバーも経営しており、むしろふつうの人々よりも酒類に近い立場だ。飲酒の問題を痛感し、けれどもアルコールを愛しているからこそ、健康に問題を生じない代替アルコールの必要性を痛感したのだろう。

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Text by 青葉やまと