米高速鉄道、なぜ18年経っても開業できないのか 泥沼化した計画の内幕

カリフォルニア州フレスノ北部の高速鉄道高架橋(2025年3月)|Matt Gush / Shutterstock.com

アメリカ・カリフォルニア州で進められている高速鉄道計画が、長年にわたって難航している。2008年に住民投票で承認され、当初は2020年の完成が想定されていたが、18年が経過した現在も開業していない。事業費の見通しは当時の約3倍に膨らみ、150億ドル(約2.4兆円)以上を投じながら、高速鉄道の営業路線にはまだ線路が敷設されていない。なぜこれほど計画が遅れているのか。

◆用地取得とインフラ移設が大きな壁に
カリフォルニア高速鉄道は、サンフランシスコとロサンゼルスを最高時速約354キロの列車で結ぶ構想だ。実現すれば、両都市間を3時間以内で移動できるようになる。

2008年の住民投票では、総事業費を約450億ドル(約7.1兆円)と見込み、100億ドルの州債発行が承認された。しかし、2026年の事業計画で示された総事業費の見通しは約1260億ドル(約20兆円)に膨らんだ。これは費用を抑えるために計画を見直した場合の数字で、こうした見直しを行わなければ約2310億ドル(約36兆円)が必要と試算されている。

ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は10月22日、建設現場への取材や資料の分析を基に、計画が難航してきた背景を報じた。

大きな障害となったのが、建設用地の取得だ。

2008年の金融危機後、連邦政府の景気刺激策によって資金を確保したものの、支出には期限が設けられていた。そのため、高速鉄道局は必要な用地をすべて取得する前に、州中央部で建設に着手した。

約191キロの建設区間だけで2200区画以上の土地が必要となり、地権者との交渉や土地収用をめぐる訴訟が工事を遅らせた。

さらに、建設予定地にある送電線や水路などの移設も難航している。

地元の非営利報道機関カルマターズによると、2017年に移設が必要と判明した設備が、2026年になっても建設の障害となっている事例がある。

高速鉄道局には事業者に移設を強制する権限がなく、工事を迅速化するために求めた法改正も大部分が実現しなかった。

こうした遅延は追加費用も生んでいる。WSJによれば、工事内容や工程の変更に伴う契約金額の増額は、累計65億ドルを超えた。

◆環境審査の書類は13万ページ超
環境規制への対応も、巨大インフラ計画を複雑にしている。

アメリカの政策専門誌シティ・ジャーナルは10月22日、高速鉄道計画に関する環境審査の書類が13万ページ以上に達していると報じた。

同誌が複数のAIシステムを使って公開資料を集計したもので、書類を積み上げると高さ約12メートル、重さ約590キロに相当するという。

審査資料には、マルハナバチの個体数調査や、トカゲの排せつ物を探知する犬の活用など、野生生物への影響を調べるための措置も登場する。

高速鉄道局の公式支出報告書によると、環境影響評価が完了した区間に関する累計支出は、2026年6月末時点で約6億7757万ドル(約1070億円)に達している。ただし、書類作成だけに使われた金額ではなく、関連する事業開発費を含む項目だ。

環境審査は生態系や住民生活への悪影響を防ぐために必要な手続きだ。一方、シティ・ジャーナルは、その負担が事業の遅延と費用増大につながっていると批判している。

◆資金不足の懸念、経費管理にも問題
計画の先行きを左右するもう一つの問題が、資金調達だ。

高速鉄道局は現在、まず州中央部のマーセドとベーカーズフィールドを結ぶ区間で、2033年の旅客営業開始を目指している。

約191キロの区間では高架橋などの建設が進んでおり、10月上旬までに66の構造物が完成した。しかし、高速鉄道の営業路線の線路はまだ敷設されていない。

監察官事務所は7月に公表した事業計画の検証報告書で、資金を前倒しで調達する仕組みを確保できなければ、2027年12月にも建設資金が不足する可能性があると警告した。

2033年の開業目標についても、必要な法改正などが速やかに実現するという楽観的な想定に依存しており、工程のリスク分析では2034年まで遅れる可能性も示されている。

一方、事業を支えるコンサルタントへの支払いにも問題が見つかった。

監察官事務所が9月に公表した調査報告書によると、コンサルティング会社4社の出張経費約115万ドルを調べた結果、約80万ドルについて必要な事前承認が確認できなかった。

また、航空機の座席のアップグレードや、ジム、ナイトクラブなどへの移動費用も問題視された。

地元紙サンフランシスコ・クロニクルによると、高速鉄道局のスティーブ・カワ理事長は10月9日、規定に反する支出についてコンサルタントに返金を求める方針を表明した。

高速鉄道局は事業費を抑えるため、初期区間の設備を必要最小限にするなど計画を見直している。サンフランシスコとロサンゼルスを結ぶ区間については、2040年の運行開始を想定する。

住民投票から18年。建設工事は進んでいるものの、用地取得、インフラ移設、環境審査、資金調達といった課題はなお残されている。2033年の初期区間開業を実現できるか、その先の全線開業に必要な資金を確保できるかが問われている。

Text by 白石千尋