9月初旬、北欧インテリアの最前線にふれられる見本市、『ハビターレ(Habitare)』がフィンランドのヘルシンキで開催された。北欧最大規模といわれるだけあり、北欧を代表する家具・デザイン・インテリアの企業480社以上が出展し、4万人を超える来場者を集めた。
広大な会場ヘルシンキ・エキスポ・アンド・コンベンション・センター(Helsinki Messukeskus)は3つの大きなゾーンで構成された。業界関係者が商談や交流を行うビジネスゾーン、多岐にわたるアイテムの最新トレンドを紹介・販売するゾーン、フィンランド発の小さいデコレーションやアート、アンティーク・ヴィンテージなどを一堂に集めたゾーンだ。

ハビターレは毎年テーマを設定している。今年のテーマは『思いもよらない展開(Plot Twists)』だった。参加企業はこのテーマに沿って、それぞれのブースで創意工夫を凝らした。
テーマの狙いは来場者を驚かせ、楽しませることだ。「こうした家具やインテリアが現実的な選択としてあっていいのだ!」と思わせ、いままでとは異なる新しいスタイルを自身の生活に取り入れるイメージを膨らませてもらう。以下、特に印象深かったブースを紹介しよう。
『Habitare Plot Twists』のいろいろなブース

会場の各所には『Plot Twists × 企業名』と銘打った10社のブースが並んだ。
ピンクを基調としたPlot Twists × Hakolaのブースは、フィンランド西部に工場があるHakolaの製品が配置されたカフェだった。ソファやテーブルはどれも温かみのあるデザインで、たくさんの人がくつろいでいた。新作のポップな形態のPause(モニターに映っているピンクと水色のラウンジチェア)も目を引いた。Pauseは接着剤を使用せずに作られており、組み立てが簡単だ。すべてのパーツがアップグレードやリサイクルに対応しているため、長く使い続けることができる。Pauseを購入して持ち帰ることもできた。
Plot Twists × Metsä/Skogenも、一息つける空間だった。Metsä/Skogen(森という意味)は、自然の中での心身の回復力の高さを重視し、人々のウェルビーイングの向上を推進しようと、オフィスやショッピングセンター、ホテル向けに森を感じさせるデザインのスペースを提供している。今回の展示は、その一例だ。

様々な照明ブランドの中で一際目立っていたのが、Secto Designのインスタレーションだった。2つのブースを使い、フィンランド産の白樺材を生かした同社の照明の世界を表現した。
『光の形態』のブース(写真の奥・右手)では、最新作と定番モデルとが並べられ、コレクションの進化を披露した。Secto Designは、スリットが入った木のランプシェードで光を包み込みつつ、周囲を照らすのが特徴だ。どのモデルもシンプルな形でありながら、思わず目を奪われてしまう不思議な魅力があった。もう1つの「光の誕生」のブース(写真の手前・左手)では、製品の背景に焦点を当て、職人芸、素材、そして北欧の自然と光に迫った。ここに置かれた木とランプのオブジェはまるで彫刻作品のようで、見慣れた照明を違う視点で見ることができ、興味深かった。
9人のアイデアを結集した木製パビリオン


ハビターレには、ハイライト的な存在の大型の展示がいくつかあった。350枚以上の薄いベニア板で作られたパビリオンも、その1つ。パビリオンのコンセプトは、「アイデアが交錯し、進展していくクリエイティブな作業場」だった。内部には、ホースを使ったランプの下に素朴な楕円形のテーブルがあり、ほうきの穂で作った椅子、木製のペグボード(等間隔に小さな穴が開いた板)を利用した椅子、平均台をつないだような木のベンチなど個性豊かな椅子が並んでいた。

パビリオンは、まだ制作途中のような印象だった。それこそが、Minestrone Workshopが意図したものだった。
Minestrone Workshopは9人の独立したデザイナーからなるヘルシンキの木工スタジオだ。デザインが完成するまでの過程とは常に不完全で、時には思いもよらない展開を見せる。9人はそうした未完の状態の大切さを可視化しようと考えたのだった。「最小限の素材で、どれだけの空間を創り出せるか?」という問いを出発点にし、全員で取り組んだプロジェクトだ。「アイデアがまとまるまで非常に苦心しました」と、2人のデザイナーが話していた。ベニア板は今後のプロジェクトに再利用されるといい、建築は時が経っても発展し得ることを示唆していた。
究極に安らげる、フィンランド北部の家

フィンランド北部の建築事務所Arkkitehti Takkunenが設計した住まいも、スケールの大きい空間だった。L字型のメインの棟(書斎やリビングルーム、キッチンや寝室など)、手織機がある織物工房、昔ながらの薄暗いサウナの館が中庭に面していた。オーダーメイドのキッチン、屋外の石材系建材、インテリアテキスタイル、家具といった様々な建築関連企業がパートナーとなり、同国北部の伝統的な技術を取り入れたスタイルに仕上げた。木や石などの素材を可能な限り“あるがままの姿”で取り入れ、日中暗い日々が続く北部でとりわけ貴重な自然光をどう取り込むかも重視したという。光の強弱が生み出す優しい雰囲気に、安心感を覚えた。


事務所を率いるTapani Takkunenと妻のEeva Takkunen(ビジュアリスト兼内装建築士)は、「住む人が健康でいられる家を設計することを最優先しています。自然環境を称え、コーティングなど素材の性質を変える加工は極力しませんでした。シンプルなデザインで静寂さを強調したのは、賑わうハビターレの空間で来場者がこの家に来て、各素材と対面し、自然に包まれた感覚を体験してほしかったからです」と語っていた。
なお、この場所はハビターレの『隣人たち(Neighbours)』という展示枠で、人の気配が感じられる建築を来場者に体験してもらうことを目的としている。
建築の知を深め、専門家と相談できるブース


住まいのサンプルは他にもあった。ハビターレで今年初めての試みだった『建築の研究室(Build Lab)』は、よりよい建築のあり方を提案するショールームで、実際に使えるようなキッチンやリビングルームやサウナが専門家たちの知識と技術を駆使して作られた。タイルや壁紙、取っ手や鏡などのインテリア材のショーケースもあり、多くの人が見入っていた。全体がエレガントな雰囲気だった。
設計者は、フィンランドを代表するインテリアデザイナーのLaura Seppänen。彼女が長年抱いてきた「プロフェッショナルとの距離を縮めたい」という思いを実現し、住まいのリノベーションを考えている人が建設・インテリアの専門家に実践的なアドバイスを無料で受けられ、また、デザイナーや学生が新しいインスピレーションを得られる場所でもあった。
機能美を追求する『.TEBIAN』の新鮮さ


機能的で力強さを強く感じさせるフィンランドの家具ブランドの.TEBIANも目を引いた。独学で家具作りを学んだというTeppo Lakaniemiが2011年に立ち上げたブランドで、自らデザインした家具を発表し続けている。
モットーは、住宅にも公共空間にも調和し、長く愛用できるサステナブルな家具作り。一瞬、少しシンプル過ぎるような気もしたが、だからこそ使う人のスタイルや建物の雰囲気に馴染みやすいのだろう。椅子に座ってみたら体に吸い付くような心地よさで驚いた。テーブルの手触りも水にふれているようにとても滑らかで、使いやすさが伝わってきた。
大胆なデザインのラグで自己表現を

フィンランドの手織りラグブランド、Finarteはニューコレクションを展示していた。「ユニークなラグを使い、多くの人々に日々の生活に喜びを感じてほしい」と願い、落ち着いた柄から遊び心のある模様まで幅広いデザインを提供している。同社のラグは35年以上にわたり、インドの熟練職人によって手織りされている。Finarte製品の60%以上はリサイクル素材で作られており、今後、この割合をさらに高めることを目指している。
注目すべき、環境を考慮したアイテム

持続可能な未来に向けた製品やコンセプトにスポットライトを当てた『選択(Choice)』のエリアでは、13社が紹介された。
Niimaarは使い捨て文化を変えようと、木製のゴミ分別ボックスなどの循環型のデザインを考案している。Niimaarは、インテリア建築スタジオのSistemと共同開発した吸音スクリーン(間仕切り)、Tyyneを発表した。
Tyyneはフィンランドで受け継がれてきた、木材を編み込む技法を取り入れた新しい間仕切りだ。素材の大部分はリサイクル材だ。同国の高級ヨットSwanの内装製造時に出たオーク材の端材(細長い端材)を、手編みしている。吸音性能のために、Aistiが製造している木質繊維を原料とした吸音パネルを採用し、編み込まれた枠の芯材として組み合わせている。Tyyneは白樺材や吸音材なしのタイプもある。幾何学模様は目に優しく、気持ちも穏やかにさせる。静かな空間を気軽に作れ、これから人気が出そうだ。
1つの記事では紹介しきれないほど多数のデザインを見たが、実に刺激的なイベントでとても楽しかった。会場を後にしてからも「私の暮らしを、より幸せを感じられるものにしたい。あれも素敵だったし、これもいいかも」といった思いが次々と湧き上がってきた。来年以降のハビターレも楽しみだ。
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Habitare Frontpage – Habitare
会場にあるフロアマップ付きのパンフレットも、是非参照してほしい。
来年の開催予定日:2027年9月8日~9月12日
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All photos by Satomi Iwasawa
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岩澤里美
ライター、エッセイスト | スイス・チューリヒ(ドイツ語圏)在住。
イギリスの大学院で学び、2001年にチーズとアルプスの現在の地へ。
共同通信のチューリヒ通信員として活動したのち、フリーランスで執筆を始める。
ヨーロッパ各地での取材を続け、ファーストクラス機内誌、ビジネス系雑誌/サイト、旬のカルチャーをとらえたサイトなどで連載多数。
おうちごはん好きな家族のために料理にも励んでいる。
HP https://www.satomi-iwasawa.com/
