友人にもトランプ関税直撃 順調ルイ・ヴィトンに試練
LVMHのベルナール・アルノーCEO|Antonin Albert / Shutterstock.com
トランプ米大統領の関税政策が、世界の高級品セクターに大きな影響を与えている。これまでトランプ氏と良好な関係を築いてきた、仏高級ブランドのモエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン(LVMH)傘下のファッションブランド、ルイ・ヴィトンも関税の嵐を避けることはできず、商品の値上げに踏み切った。近年比較的安価な商品を通じ顧客層を広げる戦略を取ってきただけに、販売不振も心配されている。
◆一転危機に……関税で値上げへ
ニューヨーク・タイムズ紙(NYT)は、LVMHのトップであるベルナール・アルノー氏にとって、今年は明るい幕開けになったと述べる。長年の友人とされるトランプ氏の大統領就任式に招かれたうえに、最大の市場であるアメリカでルイ・ヴィトン商品は飛ぶように売れており、まさに順風満帆といったところだった。
ところがその後、トランプ氏が2月に関税を発表してLVMHの株価は大幅に下落。暴落の影響で、ライバルのエルメスに世界で最も価値のあるラグジュアリー企業の称号を明け渡した。関税分は値上げで埋めるとエルメスは早々に発表したが、アルノー氏はこの時点では値上げの可能性に言及したのみだった。結局、その後、傘下のルイ・ヴィトンも値上げしたことが報じられた。
◆成長鈍化へ 顧客離れの懸念も
欧州の高級ブランドは、中国の弱い需要を相殺するため、アメリカの富裕層からの売り上げの伸びを期待していた。しかし、トランプ氏の関税をめぐる懸念は、年商4000億ドル(約58兆円)規模の高級品産業の希望を打ち砕くものだとロイターは述べる。
マッキンゼーによれば、皮革製品、ファッション、宝飾品、時計を含む個人向け高級品セクターは2019年から2023年の間に年平均5%、2021年から2023年の間は同9%成長した。しかし最新の報告書では、2024年から2027年の年間成長率は1〜3%と低い数字が予想されている。
関税対策として各社で値上げが行われているが、そもそも高級ブランドを買う富裕層にとって数千ドルの上乗せはたいしたものではないとNYTは述べる。しかし、香水やキーホルダーのような安価な商品を通じ、新たなアスピレーショナルズ(意欲的で買い物好き、社会・環境的な価値も重んじる層)と呼ばれる消費者の開拓に取り組んできたルイ・ヴィトンにとっては、より厄介だと指摘している。
ユーロニュースは、世界的な高インフレと高金利で高級品の購入が抑制されたと指摘。また高級ブランドに代わる小規模ブランドの需要の盛り上がりや、商品からウェルネスや体験へと消費が変化していることなどを上げ、高級品セクターが長期的影響を受ける可能性があるとしている。
◆品質維持を優先 米新工場建設も視野に
一方、ファッション情報サイト『スタイル・レイブ』は、世界有数の高級品ブランドとしての確立した地位を持つルイ・ヴィトンには、文化的・商業的影響力を失うことなく価格を引き上げる力があると指摘。ステータスとスタイルの究極のシンボルであり、若干の値上げでも依然として高い需要を維持すると予測している。
NYTによると、アルノー氏は、最大の問題はアスピレーショナルズ向けに幅広い商品を提供するのか、それとも純粋な高級品に集中するのかだと述べる。結局のところ、大衆向け路線には移行せず、最高の品質にこだわることを決断したとしており、短期的に成長が落ちることも仕方がないとしている。関税対策として、アメリカにある工場での増産、さらには新規工場開設の可能性にも言及した。
新工場建設となれば、関税がアメリカに製造業を呼び戻し雇用を守ると主張するトランプ大統領を喜ばせることになりそうだ。しかし現在稼働中のテキサス工場では、職人が育たず商品品質が著しく劣るという報道もあり、現地製造にも不安は残る。ファッション界の帝王と呼ばれるアルノー氏が、いかにしてこの危機を乗り越えるか注目したい。