米で現地生産のLVMHが直面した壁 品質「著しく」劣るテキサス工場

LVMHのベルナール・アルノーCEO|Thibault Camus / AP Photo

 仏高級ブランドのモエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン(LVMH)は2019年、同社の最も有名なブランドの一つであるルイ・ヴィトンのハンドバッグ工場を、米テキサス州に建設した。テープカットにはトランプ大統領も参加し、アメリカに新たな雇用をもたらす取り組みだと大いに注目された。ところがこの工場で生産される商品の質が、著しく劣っていると報じられている。

◆メリットあり! 現地生産強化
  LVMHの会長兼最高経営責任者(CEO)のベルナール・アルノー氏は2017年1月、大統領就任前のトランプ氏と会談し、アメリカの工場での雇用を増やすことについて話し合った。アメリカでは、コストが大幅に安い海外に製造業が流れており、国内生産の強化は、トランプ氏のスローガンの一つだった。

 ルイ・ヴィトンにとってアメリカは最も収益性の高い市場の一つで、すでにカリフォルニアに工場を持ち、アメリカで販売する製品の半分を現地生産していた。新工場の建設は「増え続ける需要に応えるため」だとしていた。

 現地生産の利点は、トランプ氏が貿易摩擦を激化させるなか、新たに課す可能性のある関税を含め、製品にかかる輸入関税を回避できることだった。また、需要に迅速に対応し、生産や発送の無駄やコストを削減する目的もあった。

 工場はテキサス州ジョンソン郡に建設された。テキサス州が選ばれた理由は、沿岸部へのアクセスが容易で、皮革加工の中心地として歴史があることだった。郡から10年間75%の税額軽減を約束されているが、LVMHはこれが新工場建設の主要な理由ではないとしている。(クオーツ

◆要求高すぎ… 職人育たず
 ところがロイターによれば、この工場は常に世界的に最も業績が悪く、ほかの工場よりも「著しく」劣っていると、元従業員が語っている。最も大きな問題は、ブランドの品質基準を満たす製品を作ることができる熟練した職人の不足で、各工程でミスが生じ、廃棄される皮革や焼却される製品の増加につながっていたという。

 通常ルイ・ヴィトンのハンドバッグは、19世紀半ばから確立された方法で、フランス、イタリア、スペインの工房の職人が作っている。テキサス工場では、工房で行っているのとまったく同じプログラムで新たに雇われた労働者を教育しているが、ブランドの品質基準や生産目標を満たすプレッシャーに負け、配属替えや退職を選択する人も少なくないという。2019年の開所時には、5年で1000人ほどの高度な技術を要する雇用を創設するとしていたが、今年2月の時点では、従業員数は300人以下だと元従業員が話している。(ロイター)

◆テキサスは遠かった… 課題は熟練工の確保
 もっとも、ルイ・ヴィトンのインダストリアル・ディレクター、ルドヴィック・ポシャール氏は、採用難は新型コロナのパンデミックやロックダウン、そして地元の需要の減少も影響したと説明している(ロイター)。

 ルイ・ヴィトンは、今後カリフォルニア工場の操業を合理化し、さらに多くの熟練した職人をテキサスに移動させる計画だったという。しかし、同社の幹部は「テキサスがカリフォルニアから遠く離れているという事実を過小評価していた」とポシャール氏は述べており、今のところ計画通りには進んでいないようだ。(同)

Text by 山川 真智子