日本企業にとって難しくなる海外事業 中ロが狙う新常態、高まる政治リスク

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 世界が大国間競争に回帰するなか、日本の三菱商事と三井物産は8月末までに、ロシア極東の石油・天然ガス開発事業「サハリン2」の新たな運営会社に参画する意向をロシア政府へ通知する意向を表明した。ロシアは8月5日、新会社を設立して事業を移管し、両社に対して新会社に同様の出資比率で参画するかどうかを9月4日までに通知するよう求めていた。これまで三井物産は12.5%、三菱商事は10%をそれぞれ出資していた。両社とも慎重な検討を重ね、総合的な観点から判断したと発表した。

◆苦肉の策となった継続的参画
 これは両社、そして日本政府にとっても苦肉の策だったに違いない。ロシアがウクライナに侵攻して以降、岸田政権は欧米と足並みを揃える形でロシアに対して厳しい姿勢を貫き、制裁措置を強化してきた。岸田首相の姿勢からは、対ロ関係悪化、日ロ経済の冷え込みはやむを得ないというスタンスにみえるが、緊迫化するエネルギー事情、世界的な物価高、そして何より日本は輸入する液化天然ガス(LNG)の9%近くをサハリン2に依存しており、政治と経済、市民社会などを総合的に考慮すれば、「リスクがあるなかでも参画せざるを得ない」という厳しい日本の事情があった。

 ロシアがウクライナに侵攻して以降、すでにモスクワやサンクトペテルブルクなどからはマクドナルドやスターバックスは完全に消えた。しかし、ロシアから撤退することでイメージアップになり、逆に株価が上がったという例もみられる。逆に引き続きロシアに展開することで、企業ブランドが下がるという懸念も広がっているが、三井物産と三菱商事の幹部たちもこれを懸念しているに違いない。まさに、三井物産と三菱商事は利益を追求する企業でありながら、極めて公共的な決断を下したといえる。

Text by 本田英寿